遺産分割と共有物分割

遺産分割・遺留分

1 はじめに

 こちらのコラムでも触れたとおり、共有物について、遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合、共有者が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり、共有物分割の判決によって遺産共有持分を有していた者に分与された財産は遺産分割の対象となり、この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきとされています(最判平成25年11月29日判タ1396号150頁)。すなわち、共有物について、遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合、2つの手続きを履践する必要がありますが、これは、「遺産共有関係の解消は、共有物分割ではなく遺産分割によらなければならない」との判例法理(最判昭和62年9月4日判タ651号61頁)が前提となっています。

2 令和3年民法改正

 遺産共有関係の解消は、共有物分割ではなく遺産分割によらなければならないことが明文化されました(民法258条の2第1項)。
 しかしながら、遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物については、相続開始時から10年が経過した場合、かつ、相続人が当該共有物の持分について共有物分割をすることに異議を申し出ない場合は、例外的に遺産共有関係についても共有物分割によって解消できることとなりました(民法258条の2第2項)。
 なお、民法258条の2第2項は、共有物の「全部」が相続財産に属する場合に関する規定ではないので、その点には注意が必要です。

3 終わりに

 長年放置されている遺産共有持分と他の共有持分とが併存している遺産の共有関係の解消についてお悩みの際は、ぜひご相談ください。

〇参考条文
第二百五十八条の二 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。
2 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
3 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第一項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から二箇月以内に当該裁判所にしなければならない。

弁護士: 林村 涼