大学の学費が特別受益にあたるか

遺産分割・遺留分

1 はじめに

民法903条は、共同相続人のうち、被相続人から生前に遺贈または婚姻や養子縁組もしくは生計の資本として贈与を受けた者がいる場合に、その者が受け取った部分を相続分に計算上戻すことを定めています。そして、生前に受け取った部分を「特別受益」といい、これを相続財産に戻すことを「持戻し」といいます。

では、被相続人の生前に、相続人の一人が被相続人から高等教育の費用を受け取っていた場合、これは特別受益にあたるのでしょうか。

2 札幌高決平成14年4月26日

長男が大学に進学し、生活費や授業料を被相続人が負担していたのに対し、長女は中学卒業後農家を継ぎ、次女は給料を被相続人に渡していたという事案において、下記の通り、特別受益性を肯定する判断をしています。

「抗告人Aの特別受益についての判断において,抗告人Aが昭和40年4月に○○大学に進学し,昭和44年3月に卒業したこと,その入学金・授業料・下宿代を含む生活費については両親である被相続人夫婦が負担したこと,抗告人Bは,中学を卒業した後,家業の農業に従事し続けていたこと,相手方は,抗告人Aの大学生時代に,被相続人に対し,実家への援助として,当時の相手方の給料収入月額約1万9800円のうち1万円を渡していたこと等の認定事実に基づいて,抗告人Aには,大学進学について特別受益が認められる」

 

3 京都地判平成10年9月11日

これに対し、長男のみが歯科大学の学資を受けていた事案において、裁判所は、相続人全員が大学教育を受けていたこと、被相続人が開業医であり長男に家業を承継させることを望んでいたことなどにかんがみ、特別受益性を否定しています。

そこで考えるに学費に関しては、親の資産、社会的地位を基準にしたならば、その程度の高等教育をするのが普通だと認められる場合には、そのような学資の支出は親の負担すべき扶養義務の範囲内に入るものとみなし、それを超えた不相応な学資のみを特別受益と考えるべきである。本件においては、前掲の各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、被告Y1のみが医学教育を受けているとはいえ、原告X1及び被告Y2のいずれも大学教育を受けていること、亡Aは開業医であり被告Y1による家業の承継を望んでいたことが認められ、これらの事実のほか、弁論の全趣旨により同人の生前の資産収入及び家庭環境に照らせば、相続人らはこれを相互に相続財産に加算すべきではなく、亡Aが扶養の当然の延長ないしこれに準ずるものとしてなしたものと見るのが相当である。

4 さいごに

このように特別受益性が認められるかは事案の性質等によって大きく左右されます。

相続でお悩みの方は、一度弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

 

弁護士: 伊藤由香