遺産分割における不動産の評価方法

遺産分割・遺留分

1 はじめに

 遺産分割は、現金・預貯金や、株式、不動産などの財産から構成されるすべての遺産を、相続人間で公平かつ適正に分配することを目的とする手続きなので、その前提として、遺産の経済的価値を評価する必要があります。本コラムでは、遺産に不動産が含まれる場合に、その不動産をどのように評価するかについて、取り上げます。

 

2 不動産の評価方法

 不動産を評価する方法としては、次のような4つの公的評価基準があります。

(1)公示価格(地価公示価格)

 地価公示価格とは、近隣地域の標準的な画地の価格が求められており、自由公開市場で取引が行われるとした場合に、通常成立すると認められる価格をいい、原則として、価格の三要素である市場性、収益性、費用性からアプローチする取引事例比較法、収益還元法、原価法の3方式を総合して算定されます。

 地価公示価格は、国土交通層の土地鑑定委員会が特定の標準地について毎年1月1日を基準日として公示する価格であり、国土交通省ウェブサイトの「土地総合情報システム」での検索することができます。

 

(2)都道府県地価調査標準価格(地価調査標準価格)

 地価調査標準価格とは、都道府県知事が国土利用計画法施行令に基づいて、特定の基準値について毎年7月1日を基準日として公表する価格を言います。地価調査標準価格は、国土交通省ウェブサイトの「土地総合情報ライブラリー」で検索することができます。

 

(3)固定資産税評価額

 固定資産税評価額とは、地方税349条による土地家屋課税台帳等に登録された基準年度の価格または批准価格です。土地の固定資産税評価額は、公示価格の70%を目処に設定されています。

 建物価格については、固定資産税評価額が利用されることが多いです。

 

(4)相続税評価額(いわゆる路線価)

 路線価とは、路線——道路に面している標準的な間口、奥行き距離を有する直角四辺形の土地のこと——につけられた1㎡あたりの評価額(単位千円)をいいます。路線価は、財産評価基本通達により、相続税、贈与税等の算出の基準として、毎年1月1日時点の価格が対象土地の地目ごとに算定され、国税局から公表されます。

 

3 遺産における不動産評価の方法

(1)当事者間の合意の尊重

 遺産評価の基準時や評価方法、評価額については、可能な限り共同相続人全員の合意を成立させ、これを基礎として調停や審判の迅速かつ効率的な進行を図ることが望ましいとされています。もっとも、紛争性が高い事案においては、合意を得ることが難しいため、上記のような客観性の高い公正な資料が合意を成立させることに役立ちます。

 調停手続において成立した当事者間合意事項は、調停が不成立となって審判に移行した後も効力を有するので、調停期日調書に記録化をしておく必要があります。

 (2)鑑定

 不動産の評価について争いがあり、当事者間に合意が成立しない場合には、不動産鑑定の専門家である不動産鑑定士を鑑定人に選任して、評価を行うことになります(家事法64条1項、民事訴訟法212条以下)。相不動産について不動産鑑定士などの専門的知識を有する者を鑑定人に選任して行った鑑定の結果は、評価の手法・過程・結果について特段の不合理な点が認められない限り、これを基礎として調停及び審判をすることが認められます。

 

参考文献

片岡武・管野眞一編『第3版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(日本加除出版・2017)

森公任・森元みのり『弁護士のための遺産相続実務のポイント 遺産分割・遺言無効・使途不明金ほか遺産分割の付随問題』(日本加除出版・2019)

井上茂規『遺産分割の理論と審理[三訂版]』(新日本法規出版・2021)

 

弁護士: 佐藤史帆