限定承認

遺産分割・遺留分

1 限定承認とは

  限定承認とは、相続が始まったときに相続人が選択できる手続きの一つです。

  とりわけ、相続財産にプラスの財産とマイナスの財産(債務)のどちらが多いかわからない場合に使うメリットがあります。この手続きを使えば、相続人が相続によって得るプラスの財産の限度で被相続人の債務の負担を引き受ければ足り、相続人がそれ以上の債務の弁済を行う必要がなくなります。

 

2 限定承認の申述

  限定承認を行うには、相続人全員が共同して行う必要があります(民法923条)。自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で申述を行う必要があります(民法924条、915条1項)。

 

3 申述が受理された後の手続き

  申述が受理された後、相続財産の清算手続きを行います。

  相続人が複数いる場合には、申述の受理と同時に、家庭裁判所から被相続人の相続財産を管理及び債務の弁済に必要な行為を行う「清算人」が、相続人の中から選任されます(民法936条)。

 そして、限定承認者または清算人は、すべての相続債権者及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び債権の請求をすべき旨の公告の手続をします。限定承認者の場合は5日以内、清算人が選任された場合には、選任後10日以内に行う必要があります(民法927条1項、936条3項)。また、公告は、官報への掲載で行います(民法927条4項)。ちなみに、官報とは、国の政策を周知したり、国民の権利義務に関連する各種の公告を掲載する重要な機関紙のことですが、ここで公告を行います。2か月以上の公告期間が必要です(民法927条1項)。

 また、債権者や受遺者が誰なのか特定できている場合には、公告に加えて、請求を申し出るよう個別に通知して催告する必要があります(民法927条3項)。

 

4 換価手続き

 上記3の公告、催告の期間満了後、預貯金の解約や不動産等については競売を行い換金します。もっとも、特定の相続財産手元に残したい特定の相続財産がある場合には、相続人は「先買権」を行使することでその財産の競売を中止し、優先的に買い取ることができます(民法932条)。

 そして、期間内に債権請求を申し出てきた債権者や、もともと特定されていた債権者に対して、換価手続を行った財産で弁済していきます。債務額が換価できた財産よりも上回っていて、債権者全員に満額を支払えないときは、各債権の優先順位を確認しつつ、それぞれの債権者の債権額に応じた割合でプラスの財産を配分することになります。

 

5 残余財産の分割

 上記4の債権者への弁済を終えた後、プラスの財産が残っていたら、期間終了後に請求を申し出た債権者に対して債務の弁済をしていきます。それでもプラスの財産が余った場合に、相続人が相続します。相続人が複数いるときは、相続人間で遺産分割を行って相続財産の分け方を決めることになります。

 

 以上のとおり、限定承認は便利な手続きですが、その反面やや難しく、また厳格な期間制限が法定されています。

 限定承認をお考えの方は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。

以上

 

弁護士: 壽 彩子