被相続人の名義以外の預貯金の相続

遺産分割・遺留分

1 被相続人名義以外の預貯金

被相続人が他の家族の名義で預貯金口座を開設したり、他者名義の預貯金口座へ被相続人が預金したりしている場合、形式的な名義からすると被相続人の財産とはいえないとして、遺産に含まれるのかが、争いになることがあります。

2 定期預金の場合

このような他者名義の預貯金について、最高裁は、定期預金の場合、以下のとおり「預金の出捐者」が、預金者であると判示しています。よって、定被相続人の名義ではない定期預金についても、被相続人が出捐したことが明らかであれば、遺産であることを前提に協議を進めるべきことになるでしょう。

  • 最判昭和48年3月27日( 民集27巻2号376頁)

「無記名定期預金契約において、当該預金の出捐者が、自ら預入行為をした場合はもとより、他の者に金銭を交付し無記名定期預金をすることを依頼し、この者が預入行為をした場合であつても、預入行為者が右金銭を横領し自己の預金とする意図で無記名定期預金をしたなどの特段の事情の認められないかぎり、出捐者をもつて無記名定期預金の預金者と解すべきである」

  • 最判昭和52年8月9日(民集31巻4号742頁)

「金融機関の職員の勧めに応じて、自己の預金とするために金員を出捐した者が、右職員を代理人または使者として職員名義による記名式定期預金をしたうえ、預金証書の交付を受け、届出印鑑とともに所持している場合には、出捐者がその預金者であると認めるのが相当である。」

3 普通預金の場合

一方、普通預金の場合には、判例は出捐者だけでなく、その預金の趣旨や、口座の開設者、その後の銀行印・通帳の管理実態など個別の事情を総合考慮して預金者を判断しています。

  • 最判平成15年6月12日(民集57巻6号563頁)

債務整理事務の委任を受けた弁護士が、委任事務処理のため委任者から受領した金銭を預け入れるために弁護士名義で普通預金口座を開設し、これに上記金銭を預け入れ、その後も預金通帳および届出印を管理して、預金の出し入れを行っていた場合には、当該口座にかかる預金債権は弁護士に帰属するとしました。

「本件口座は,上告人甲野が自己に帰属する財産をもって自己の名義で開設し,その後も自ら管理していたものであるから,銀行との間で本件口座に係る預金契約を締結したのは,上告人甲野であり,本件口座に係る預金債権は,その後に入金されたものを含めて,上告人甲野の銀行に対する債権であると認めるのが相当である」

  • 最判平成15年2月21日(民集57巻2号95頁)

「損害保険会社Aの損害保険代理店であるBが、保険契約者から収受した保険料のみを入金する目的で金融機関に「A代理店B」名義の普通預金口座を開設したが、AがBに金融機関との間での普通預金契約締結の代理権を授与しておらず、同預金口座の通帳及び届出印をBが保管し、Bのみが同預金口座への入金及び同預金口座からの払戻し事務を行っていたという判示の事実関係の下においては、同預金口座の預金債権は、Aにではなく、Bに帰属する。」

弁護士: 立野里佳