遺言執行者があるときに相続人が勝手に遺産を処分した場合
遺産分割・遺留分
1 問題の所在
遺言で遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者が遺産を遺言の内容の実現を行います(民法1012条1項)。遺言執行者は、その就職を承諾したときからその任務を行わなければなりません(同1007条1項)
しかし、特定の不動産を相続しない相続人(以下「A」といいます。)が、遺言執行者が就任を承諾する前に、不動産の登記を自分に移して、さらに第三者(以下「B」といいます。)に売ってしまった場合、本来その不動産をもらうことができた人(以下「C」といいます。)は、その不動産の登記を返せと言えるのでしょうか。
2 解説
同1013条は1項で、「遺言執行者がある場合」には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。としています。そして、2項で前項の規定に違反してした行為は、無効とする。と定めています。
この「遺言執行者がある場合」とは、現実に遺言執行者が就任した後のことだけでなく、遺言執行者が就任を承諾する前も含みます(最高裁昭和62年4月23日判決)。
そのため、遺言執行者が遺言で指定されている場合には、原則として、Aが不動産の登記を自分に移しても無効になります。
しかし、2項ただし書きでは、これをもって善意の第三者に対抗することができない。としています。(これは、平成30年の法改正で追加された条文になります。)これは、何も知らない第三者を保護して、取引の安全を守るために追加されました。
この「善意の第三者」とは、要するに、Aが取得した不動産について、遺言執行者がいると知らなくて、実はAが正当な所有権者でないと知らなかった人を指します。
つまり、Aが勝手に不動産の登記を移した行為は無効であっても、それを知らずに買ったBに移ってしまったら、CはBに返せということができなくなります。
3 結語
遺言執行者がいる場合に、権利のない相続人が勝手に遺産の相続登記した場合には、その相続登記は無効ですが、その事情を知らない第三者に売られてしまった場合には、返せということはできなくなります。
これを防ぐためには、いち早く所有権移転禁止の仮処分をして、第三者に売られることを防ぐ必要があります。しかし、所有権移転禁止の仮処分をするためには、集めなければいけない資料もたくさんあり、また、スピードも求められますから、そんなときは専門家におまかせください。
相続人の一人が勝手に相続登記したときは、すぐに当事務所にご相談ください。
弁護士: 森下 裕