相続人の破産と相続

遺産分割・遺留分

はじめに

破産手続きの準備中に親が亡くなった場合には、相続においても問題が発生し得ます。相続放棄、遺産分割の方法と破産開始決定の時期で結論が変わる可能性が高く、場合によっては、相続していないのに、破産管財人から、否認権を行使される場合もありますので、以下の通り、場合を分けて解説いたします。

破産と相続

原則として、破産開始手続開始後に親が亡くなり、相続財産を得た場合には、破産者は、親の遺産を取得することができます。

反対に、破産手続準備中に親がなくなり、法定相続人間で遺産分割協議を行った後に、破産手続開始決定があった場合には、当該相続財産は、破産開始決定時に存在しているので破産財団に含まれることになります。

では、次の場合に破産管財人は否認権を行使することができるでしょうか。

相続放棄をした場合

相続放棄のような身分行為については、他人の意思によって強制すべきでないという考えからから、相続放棄は、詐害行為取消権の対象にならないとする裁判例があります(最判49年9月20日民集28巻6号1202号)。一般的に相続放棄に対する否認権行使の可否についても詐害行為取消権の場合と同様に、できないとする見解が多くあります。

遺産分割協議をした場合

自由財産である99万円だけを残した遺産分割協議を行った場合には、否認権行使の対象とされる場合もあります。

裁判例として、「遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるから」「共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当」としたものがあります(最判平成11年6月11日民集53巻5号898頁)。

そのため、遺産分割協議の場合は、破産管財人の否認権行使の対象とされる見解が多くあります。

最後に

破産をするから共同相続人に迷惑をかけたくないと思われても、方法によっては否認権を行使される可能性がありますので、遺産分割協議を行う前に一度弊所にご相談ください。

弁護士: 森下 裕