大学院の学費、留学費用等が特別受益にあたるか

遺産分割・遺留分

1 はじめに

前回のコラムでは、大学の学費が特別受益にあたるかを紹介いたしました。

今回のコラムでは、大学院の学費、留学費用が特別受益にあたるかについて判断した事例を紹介いたします。

2 裁判例-名古屋高判令和元年5月17日

この点、名古屋高判令和元年5月17日は、次のように判断しています。

学費、留学費用等の教育費については、被相続人の生前の資産状況、社会的地位に照らし、被相続人の子である相続人に高等教育を受けさせることが扶養の一部であると認められる場合には、特別受益には当たらないと解するのが相当である。

そして、被相続人一家は教育水準が高く、その能力に応じて高度の教育を受けることが特別なことではなかったこと、原審申立人が学者、通訳者又は翻訳者として成長するために相当な時間と費用を費やすことを被相続人が許容していたこと、原審申立人が、自発的に被相続人に相当額を返還していると認められること、被相続人が、原審申立人に対して、援助した費用の清算や返済を求めるなどした形跡はないことは、原審判の「理由」中の第3の3(1)で認定・説示するとおりである。

また、被相続人は、生前、経済的に余裕があり、抗告人や抗告人の妻に対しても、高額な時計を譲り渡したり、宝飾品や金銭を贈与したりしていたこと、抗告人も一橋大学に進学し、在学期間中に短期留学していること、被相続人が支出した大学院の学費や留学費用の額、被相続人の遺産の規模等に照らせば、原審申立人の大学院の学費、留学費用は、原審申立人の特別受益に該当するものではなく、仮に特別受益に該当するとしても、被相続人の明示又は黙示による持戻免除の意思表示があったものと認めるのが相当である。

3 検討

特別受益の持ち戻しは、共同相続人間の公平を図りつつ、被相続人の意思を推測するものであるため、本件のように大学院という一般的には高水準の教育費についても、他の共同相続人の受けていた教育水準との比較や、被相続人の意思を推測する前提として被相続人の資産状況等を見た上で、特別受益にあたらないと判断されたと考えられます。

4 さいごに

このように、特別受益に当たるかはケースバイケースによるところがあると考えられます。相続についてお悩みの方は一度、専門家にご相談されることをおすすめいたします。

 

弁護士: 伊藤由香