養子縁組の効力を争われたら

遺産分割・遺留分

1 はじめに

養子縁組を結ぶと養子は養親の嫡出子となるため(民法809条)、当然に養親の相続人となります。
そのため、被相続人が養子縁組を結んでいた場合、相続分ないし遺留分の割合が減少してしまうことから、養子縁組は相続人間の紛争の火種になることが少なくありません。
本コラムでは、養子縁組の効力を争われた場合(養子縁組無効確認訴訟など)におけるポイントについてご説明いたします。

2 養子縁組の効力

養子縁組は、一般的な契約と同様、当事者の意思の合致、すなわち、縁組の合意があり、それを届け出ることによって成立します(民法799条、739条)。しかし、当事者が縁組時に意思能力を有していなかった場合はもちろん、「人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき」(民法802条1号)、また、「当事者が縁組の届出をしないとき」(同条2号)には、その養子縁組は無効となります。
上記のうち「縁組をする意思」、つまり縁組意思の存否については、①縁組の実質的意思の有無、②縁組の届出意思の有無、③縁組時の意思能力の有無が問題となります。
上記③が問題とならない事案においては、特に①縁組の実質的意思の有無が争われることとなるでしょう。

縁組の実質的意思とは、真に養親子関係を創設しようとする意思をいいます。
その具体的内容を一義的に定めることは難しいですが、「養子縁組によって、親子としての精神的つながりをつくろう」という意思をイメージされたらよいかもしれません。
他方で、裁判例においては、他の推定相続人の相続分・遺留分を減少させる手段として被相続人と第三者が縁組をした事例や養子が専ら財産相続を目的として縁組をした事例などで、養子縁組が無効と判断されたケースもあります。

しかしながら、上記のような他の目的があったとしても、当事者に真に養親子関係を創設しようとする意思も併存すれば、縁組意思を認めるのが裁判例の傾向です。
例えば、大阪高裁平成21年5月15日判決は、「親子関係は必ずしも共同生活を前提とするものではないから、養子縁組が、主として相続や扶養といった財産的な関係を築くことを目的とするものであっても、直ちに縁組意思に欠けるということはできないが、当事者間に財産的な関係以外に親子としての人間関係を築く意思が全くなく、純粋に財産的な法律関係を作出することのみを目的とする場合には、縁組意思があるということはできない」と判示しています。

3 おわりに

養子縁組の効力を巡って相続人間で紛争が生じた場合には、上記の「縁組の実質的意思」が重要なポイントとなります。
そして、縁組の実質的意思の有無の判断においては、養親と養子の従前の交流関係・縁組後の交流関係、当事者に親子関係を形成する必要性、養親の財産管理を巡る紛争の有無、養子縁組による推定相続人の相続分への影響の有無などが考慮されることになるでしょう。
養子縁組と相続に関してお悩みのことがあれば、一度弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

弁護士: 森遼太郎