葬儀費用の負担

遺産分割・遺留分

1 はじめに

 葬儀費用を誰が負担するか、という問題は、遺産分割手続におけるメジャーな争点と言えますが、様々な見解が提唱されており、裁判例も統一されていません。そこで、本コラムでは、葬儀費用を誰が負担するのか、という問題についての見解を整理するとともに、近年の裁判例の傾向をご紹介します。

2 葬儀費用の負担に関する見解

 葬儀費用の負担については、①相続人が共同して負担するとする説(相続人負担説)、②相続財産の負担となるとする説(相続財産負担説)、③慣習ないし条理によって定まるとする説(慣習ないし条理説)、④実質的に葬儀を主催した者(喪主)が負担するとする説など、様々な考え方があり、どの考え方を採用するかによって、遺産分割での処理に差異が生じます。

 相続人負担説(①)によれば、遺産相続人が法律上当然にその法定相続分に応じて分割承継することになりますので、葬儀費用は遺産分割の対象となりません。喪主負担説(④)においては、あくまでも喪主が負担すべきとするため、遺産分割手続で葬儀費用の精算をすべきではなく、他方、相続財産負担説(②)によれば、遺産分割手続で精算をすることも可能という帰結になります。④慣習ないし条理説においては、条理に照らして判断をするほかありません。

 このように、葬儀費用の負担については様々な考え方があり、最高裁判所の見解も示されていませんが、比較的近年の裁判例の傾向としては、喪主負担説(④)を採用しているものが多く見られます。

 例えば、東京地判昭和61年1月28日は、相続財産負担説を否定し、葬式費用は、特段の事情(葬式主宰者と他の者との間に、特別の合意があるとか、葬式主宰者が義務なくして他の者のために葬式を行った等の特段の事情)がない限り、葬式を実施した者が負担するのが相当としました。また、神戸家審平成11年4月30日は、葬儀は、死者を弔うために行われるものであるが、実施挙行するのはあくまでも死者ではなく遺族等の死者に所縁のあるものであることから、葬儀の費用は相続債務と見るべきではなく、原則として喪主の負担となると解すべきであるとしています。さらに、より近年の裁判例としては、例えば、名古屋高裁平成24年3月29日は、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者が負担するものと解するのが相当としました。令和の裁判例では、東京地裁令和元年12月11日が、葬儀や法要の費用については、原則として喪主が負担すべきものと解されるから(その反面として、香典等は喪主が取得することができる。)、他の相続人の了解を得ることなく、遺産から支出することは認められないとしています。

3 おわりに

 近年の裁判例の傾向として、喪主負担説に関する裁判例を紹介しました。ただ、実際の遺産分割調停では、理論的な考え方に固執せず、むしろ、個別具体的な事情を踏まえて、事件の柔軟な解決に資するのであれば、相続人全員の合意により葬儀費用を相続財産から負担するというケースも多々見られるところです。遺産分割でお悩みの方は、ぜひ専門家にご相談ください。

 

■参考文献

・松原正明「全訂 判例先例相続法Ⅱ」(日本加除出版株式会社)301頁以下

 

 

弁護士: 谷貴洋