生活費の援助と特別受益
遺産分割・遺留分
親から長期間にわたり、生活費の援助などを受けていたことは、親の遺産分割の際に考慮されるのでしょうか。
1 特別受益
民法は、相続人間の平等を図るため、被相続人から遺贈や贈与を受けた場合に、これらを「特別受益」として、遺産分割において考慮すること旨定めています(民法903条)。上記において、親から受領した援助が「特別受益」と判断された場合、相続人は同援助を相続財産に含めて遺産を分配する必要がございます。具体的には相続人の受け取った「特別受益」の額を相続開始時の積極財産に加え(「持ち戻し」といいます。)、持ち戻しのされた財産(「みなし財産」といいます。)に法定相続分をかけて具体的な相続分を計算します。そして、「特別受益」を受け取った相続人は、みなし財産に法定相続分をかけた額から特別受益の額を控除します。
みなし相続財産=相続財産+特別受益額
特別受益者の具体的な相続分=みなし相続財産×法定相続分-特別受益
他の相続人の具体的な相続分=みなし相続財産×法定相続分
2 生活の資本としての贈与が「特別受益」に該当するか
民法上、親族間には扶養義務が認められています(民法877条)。したがって、親から生活費の援助を受けていたとしても、それが扶養義務の履行と解される場合であれば、特別受益には該当しません。
では、具体的に、どの程度の援助であれば扶養義務の履行と判断されるのでしょうか。生活費の援助が「特別受益」に該当するかは、被相続人の生前の資産、収入、家庭状況等に照らして総合的に決定されます。
この点について、被相続人が相続人に対して数年にわたって毎月2万円~25万円の送金をしていた事案において、「月額10万円に満たない送金は親族間の扶養的金銭援助にとどまり、これを超える送金のみが贈与と認められる」旨判示した審判例(東京家審平成21年1月30日家月62巻9号62頁)がございます。
3 まとめ
具体的な遺産分割手続においては、当該事案ごとの細かな検討が必要です。お悩みの際は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
弁護士: 田代梨沙子