相続分譲渡と遺留分及び特別受益

遺産分割・遺留分

1 はじめに

 コラム「遺留分を算定するための財産の価額」でも取り上げましたが、相続人に対する贈与は、相続開始前の十年間にしたもののうち婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額の限度で、遺留分を算定するための財産の価額に算入することとしています(民法1044条1項前段、3項)。

 それでは、相続分の譲渡(相続分の譲渡については、こちらの記事をご参照ください。)は、特別受益、ひいてはその価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与(民法1044条、903条1項)に当たるのでしょうか。

2 最判平成30年10月19日判タ1458号95頁

 同判例は、亡Bとその妻亡Aの子であるXが、先に亡くなった亡Bの相続(一次相続)において亡Aから相続分の譲渡を受けた亡Bとその妻亡Aの子であるYに対し、同相続分の譲渡によって遺留分を侵害されたとして、Yが一次相続で取得した不動産の一部についての遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続等を求める事案において、「共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。」と判断しました。

 要するに、基本的には、相続分の譲渡も財産あるいは財産的価値の譲渡にほかならないから、そのようには言えない場合を除き、特別受益、ひいてはその価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与に該当すると判断しました。

 上記裁判例の判断は一見当然のように思えますが、民法909条本文が、「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と規定しているため、「亡Aは亡Bの相続開始時から相続財産を取得しなかったことになるから、亡AからYに対する相続分の贈与があったとすることはできない」という結論にもなり得えたところで、実際、原審及び原々審はそのように判断しています。

3 おわりに

 遺留分は、近時重要な判例が出され、また、令和元年に大きな改正があったことから、他の分野以上に知識のアップデートが必要な分野となりますので、遺留分についてお悩みの方は遺留分に詳しい弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

弁護士: 林村 涼