投資信託と相続
遺産分割・遺留分
1 問題の所在
令和4年より、高校の家庭科の授業でも金融教育が始まるなど、投資による資産の形成には注目が集まっています。
その中でも、投資信託による株式の運用が資産運用として始めやすく、今後もその数が増えていくことが予想されます。そんな中投資信託による資産を保有している方が亡くなった場合、投資信託資産はどのように相続されるのでしょうか。
投資信託の株式については口数を単位とするものがあるため、これを共同相続した場合には、共同相続人が個人で自分の持分に相当する口数分の解約等ができるように思えますが、そのようなことができるのでしょうか。
2 委託者指図型投資信託受益権の共同相続
投資信託で保有している株式については、最高裁平成26年2月25日判決では以下のように述べて、当然に自己の相続分に応じて分割されることはないと結論づけました。
「株式は,株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し,株主は,株主たる地位に基づいて,剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号),残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と,株主総会における議決権(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって(最高裁昭和42年(オ)第1466号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号804頁参照),このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された株式は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである(最高裁昭和42年(オ)第867号同45年1月22日第一小法廷判決・民集24巻1号1頁等参照)。」
委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権は、「口数を単位とするものであって,その内容として,法令上,償還金請求権及び収益分配請求権(同法6条3項)という金銭支払請求権のほか,信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており,可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された上記投資信託受益権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」
つまり、投資信託による資産については、単に配当金等の金銭の支払いを受ける権利(自益権)だけでなく、会計帳簿の閲覧権や議決権等(共益権)をも含むものであることから、単純に分けることができない性質のものであることから、当然に相続分に応じて分割されるものではないと判示しました。
3 結語
以上のことから、投資信託解約とともに償還金等を請求するには、原則として遺産分割を行った後に解約等をする必要があります。遺産分割前に被相続人の投資信託を解約するには、共同相続人の全員の同意を得ることが必要になると考えられます。
これに反対する共同相続人がいるときには、早期に弁護士に相談することをお勧めいたします。
弁護士: 森下 裕