公営住宅の使用権と相続
遺産分割・遺留分
1 はじめに
物件の賃借権については、一般的に相続の対象とされていますが、公営住宅に居住していた方が亡くなった場合、公営住宅を使用する権利は相続の対象となるのでしょうか。
2 最判平成 2年10月18日民集44巻7号1021頁
標記の最高裁判決は次のように述べ、公営住宅の使用権が相続の対象とならないと判断しました。
「公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対して低兼な家賃で住宅を賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって(一条)、そのために、公営住宅の入居者を一定の条件を具備するものに限定し(一七条)、政令の定める選考基準に従い、条例で定めるところにより、公正な方法で選考して、入居者を決定しなければならないものとした上(一八条)、さらに入居者の収入が政令で定める基準を超えることになった場合には、その入居年数に応じて、入居者については、当該公営住宅を明け渡すように努めなければならない旨(二一条の二第一項)、事業主体の長については、当該公営住宅の明渡しを請求することができる旨(二一条の三第一項)を規定しているのである。
以上のような公営住宅の規定の趣旨にかんがみれば、入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はないというべきである。」
このように、最高裁は、公営住宅の使用権について、公営住宅法の趣旨にかんがみ、被相続人の固有の権利とし、相続の対象とならない判断をしました。
3 さいごに
本判断は、民法の賃借権の相続とは異なる判断がなされた点で興味深いものです。
相続が発生した際の権利関係について、ご不明な点がありましたら一度専門家にご相談ください。
弁護士: 伊藤由香