審判手続における換価分割②:競売手続で相続人が不動産を取得できるか
遺産分割・遺留分
1 はじめに
前回のコラムでは終局審判としての換価分割について、裁判所が競売による換価を命じる審判を出した後、相続人が競売を申し立てて実際の換価手続を進めることになるというお話をさせていただきました。本コラムでは、換価分割による競売手続の中で、引き続き当該不動産への居住を希望する相続人が当該不動産を競売により取得することができるかどうか、という点についての説明を行います。
2 換価分割に関する競売手続
前回のコラムでも記載させていただいたとおり、換価分割を命じる審判をもとにした競売手続は、担保権実行の例によるとされています(民事執行法195条)。これは、実際には担保権の実行でないにもかかわらず、形式的に担保権実行の手続を利用して換価を行うという意味で、「形式的競売」と呼ばれています。この競売による換価のおおまかな手続イメージは以下のとおりです。
①競売の申立て→開始決定→競売差押登記
②不動産の現況や評価額に関する調査→売却基準価額の決定
③入札→開札→最高価格の落札者に対する売却許可決定
④当該落札者が代金を納付して換価完了
なお、形式的競売の申立てには、対象不動産の評価額を基準とする予納金が必要となります。東京地裁のHPによれば必要な予納金の金額は以下のとおりです。また、競売による差押えを行うために、登録免許税(不動産の評価額の4/100)も必要になります。
評価額 |
予納金 |
2000万円未満 |
80万円 |
2000万円以上5000万円未満 |
100万円 |
5000万円以上1億円未満 |
150万円 |
1億円以上 |
200万円 |
3 当該不動産への居住を希望する相続人が落札して不動産を取得することが可能か
一般的な担保権実行や強制競売における当該不動産の所有者(=債務者)は、債務を弁済する立場にあるので競売不動産の買受申出は禁止されています(民事執行法68条)。しかしながら、換価分割のための形式的競売における不動産所有者(相続人)は「債務者」ではないので、同条の適用はなく、相続人自らが競売不動産を買い受けることは可能と考えられます。
したがって、例えば、相続財産たる不動産に居住している相続に人が、代償分割を希望したが代償金の金額で合意ができず審判で換価分割を命じられた場合でも、当該相続人は、換価分割による競売手続で入札して落札することができれば当該不動産を取得するということが可能ということになります(一度落札のために代金全額を立て替えて支払う必要はありますが、その後は審判で命じられた取得分の金銭を取り戻すことが可能ということになります。)。
弁護士: 相良 遼