遺留分権利者が相続税を申告する時期
遺産分割・遺留分
1 はじめに
相続税の申告・納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内=被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。しかし、遺留分侵害額の請求をし、調停・訴訟などを起こした場合には1~2年がかかってしまうケースも珍しくなく、相続税の申告期限までに遺留分の額が決定しないため、相続税の申告ができない状態が生じます。このような場合、どのように対応すればよいでしょうか。
2 相続税の申告期限までに、遺留分の額が決まった場合
納税前に遺留分侵害請求し、遺留分の額が決定した場合には、遺留分権利者は相続税の申告期限内に相続税の申告・納税をする必要があります。
一方で、遺留分義務者は遺留分として支払った金銭を差し引いた額で相続税申告・納税を行います。
3 相続税の申告期限までに、遺留分の額が決まっていない場合
相続税の申告期限までに遺留分の額が確定しない場合には、遺留分侵害請求がないことを前提として相続税の計算を行います(相続税基本通達11の2-4、相続税法第32条第1項第3号)。
そのため、相続によって何も取得していない遺留分権利者は、相続税の申告・納税まではしなくてもよいというのが税務実務の運用です。
遺留分権利者は、遺留分額が確定した後に「期限後申告書」を提出し、取得した遺留分侵害額に応じた相続税の納税することができます。期限後申告は遺留分侵害額請求の支払い内容が確定した日の翌日から4ヶ月以内に行う必要があります。
なお、仮に期限後申告書を提出しなかった場合でも、遺留分義務者が更生の請求をした場合には、税務署から還付手続により減った相続税分について遺留分権利者が支払う旨決定がなされ、遺留分権利者は納税する必要があります。
4 遺留分以外に一部財産を相続又は生前贈与されている場合
遺留分権利者は、遺留分以外に相続又は生前贈与されている財産について期限内に申告する必要があります。遺留分額が確定した場合、追加取得したものとして「修正申告」をすることになります。
参照
相続税基本通達11の2-4
相続税の申告書を提出する時又は課税価格及び相続税額を更正し、若しくは決定する時において、まだ法第32条第1項第2 号、同項第3号、法施行令第8条第2項第1号又は第2号に掲げる事由(※)が未確定の場合には、当該事由がないものとした場合における各相続人の相続分を基礎として課税価格を計算することに取り扱うものとする。(昭39直審(資)30改正、平15課資2-1、平19課資2-5、課審6-3、平25課資2-10改正)
相続税法32条1項3号
遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと。
弁護士: 仲野恭子