遺産分割と期間制限
遺産分割・遺留分
1 原則:遺産分割自体に期限は存在しない
相続が発生すると遺産分割を行う必要がありますが、その遺産分割を行うこと自体に期間制限はありません。
しかしながら、これが原因で遺産分割が早期に行われず、時間が経ってから遺産分割協議を始めても、生前贈与による特別受益や寄与分等に関する証拠が散逸してしまって関係者の記憶も薄れ、具体的な遺産分割協議を行う支障となって更に遺産分割が長期間行われない(それによって相続が連続して生じてしまって相続関係が極めて複雑になってしまう)という問題が生じます。
2 相続開始から10年が経過した後に遺産分割では特別受益や寄与分の主張ができなくなる
こうした問題を解消するため、令和5年4月1日に民法が改正され、相続開始時から10年を経過した後に行う遺産分割では特別受益や寄与分の主張ができなくなるということになります(新民法904条の3)。つまり、相続開始から10年を経過した後に遺産分割を行う場合は、法定相続分を基準とした遺産分割しかできなくなってしまうのです。
ただし、以下のような場合については特別受益や寄与分の主張をすることは否定されないという例外が設けられております(新民法904条の3第1号第2号)。
①10年が経過前に相続人が家庭裁判所に遺産分割請求を行ったとき
②10年の期間満了前に遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由(※被相続人が遭難して死亡していたが、その事実が確認できず、遺産分割請求をすることができなかった等)が相続人にあった場合において、当該事由消滅時から6ヶ月前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
とはいえ、特別受益や寄与分の主張を行おうと考えている場合は、相続開始から10年が経過してしまうと、原則としてはそれ以降は特別受益や寄与分の主張を行うことができなくなりますので、それ以前に、家庭裁判所に対して、調停や審判の申立てを行う必要があります。
3 経過措置について
では、「どの相続」について以上のルールが適用されるのかですが、結論としては、改正法の施行日(令和5年4月1日)以前に発生した相続も含めて全ての相続につき以上のルールが適用されることになります(改正法附則3条)。
ただし、改正法施行日(令和5年4月1日)以前に発生した相続については、「相続開始から10年経過時」と「改正施行時(令和5年4月1日)から5年経過時」のいずれか遅い時までに家庭裁判所に遺産分割の請求を行えば、特別受益や寄与分の主張は否定されないという形で、5年の猶予期間が設けられております。
(期間経過後の遺産の分割における相続分)
民法第904条の3
前三条の規定(=特別受益・寄与分)は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
①相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
②相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき
(遺産の分割に関する経過措置)
民法附則第3条(令和3年法律第24号附則:民法等の一部を改正する法律(令和3年4月28日))
新民法第904条の3……は、施行日前に相続が開始した遺産の分割についても、適用する。この場合において、新民法第904条の3第1号中「相続開始の時から10年を経過する前」とあるのは「相続開始の時から10年を経過する時又は民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第二十四号)の施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時まで」と、同条第2号中「10年の期間」とあるのは「10年の期間(相続開始の時から始まる10年の期間の満了後に民法等の一部を改正する法律の施行の時から始まる5年の期間が満了する場合にあっては、同法の施行の時から始まる5年の期間)」と……する。
以 上
弁護士: 相良 遼