代襲相続と特別受益

遺産分割・遺留分

1 はじめに

本コラムでは、代襲相続が発生している事案における、被相続人の代襲者・被代襲者に対する贈与・遺贈が、特別受益に該当するかという点について解説します。

2 被代襲者に対する贈与・遺贈の特別受益該当性

福岡高判平成29年5月18日・判タ1443号61頁は、被相続人が、生前に子である被代襲者に対して土地を贈与し、その後被代襲者が死亡して更にその子(被相続人の孫)が、被相続人の相続について代襲相続をした事案において、以下のとおり判示したうえで、被代襲者に対する土地の贈与が、代襲者との関係でも特別受益に該当すると判断しました。
特別受益の持戻しは共同相続人間の不均衡の調整を図る趣旨の制度であり、代襲相続(民法八八七条二項)も相続人間の公平の観点から死亡した被代襲者の子らの順位を引き上げる制度であって、代襲相続人に、被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はないこと、被代襲者に特別受益がある場合にはその子等である代襲相続人もその利益を享受しているのが通常であること等を考慮すると、被代襲者についての特別受益は、その後に被代襲者が死亡したことによって代襲相続人となった者との関係でも特別受益に当たるというべきである。

上記裁判例によれば、被代襲者に対する贈与・遺贈は、代襲相続における代襲者との関係でも特別受益に該当することになります。

3 代襲者に対する贈与・遺贈の特別受益該当性

上掲福岡高判平成29年5月18日は、被相続人が生前、代襲相続発生前に代襲者に対して行った土地の持分の贈与の、代襲相続における特別受益該当性について、「相続人でない者が、被相続人から直接贈与を受け、その後、被代襲者の死亡によって代襲相続人の地位を取得したとしても、上記贈与が実質的に相続人に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がない限り、他の共同相続人は、被代襲者の死亡という偶然の事情がなければ、上記贈与が特別受益であると主張することはできなかったのであるから、上記贈与を代襲相続人の特別受益として、共同相続人に被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はない。また、被相続人が、他の共同相続人の子らにも同様の贈与を行っていた場合には、代襲相続人と他の共同相続人との間で不均衡を生じることにもなりかねない。」との理由から、以下のとおり判示しました。
相続人でない者が、被相続人から贈与を受けた後に、被代襲者の死亡によって代襲相続人としての地位を取得したとしても、その贈与が実質的には被代襲者に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がない限り、代襲相続人の特別受益には当たらないというべきである。

上記裁判例によれば、代襲相続発生前の被代襲者に対する生前贈与は、原則として代襲相続人との関係では特別受益に該当しないことになります。他方で、「贈与が実質的には被代襲者に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情」がある場合には、例外的に当該贈与が被代襲者との関係で特別受益に該当することになります。

なお、上記裁判例は、代襲者に対する贈与の目的たる土地について、被代襲者と代襲者に当該土地の持分の2分の1ずつが贈与されていたことに加え、当該土地の利用状況とその当該贈与の前後における変化の有無をも考慮したうえで、代襲者に対して当該土地を贈与する必要があったことがうかがわれないことを認定し、同贈与が実質的には被代襲者に対する遺産の前渡しと評価しうる特段の事情があるとして、同贈与が代襲相続において特別受益に該当すると判断しております。

 

弁護士: 土井將