再転相続と相続放棄
遺産分割・遺留分
1 問題の所在
甲が死亡し、その相続人である乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡した結果、丙が乙の相続人となった場合(いわゆる再転相続)に関し、同法 915 条 1 項の規定する相続の承認又は放棄をすべき 3 箇月の期間(熟慮期間)について民法916条は「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算する旨を規定しています。
本コラムでは、その起算点の意味について、乙からの相続が開始したことを知った時と解釈すべきであるかが問題となった事案について紹介いたします。
2 最判令和元年8月9日(判例タイムズ1474号 5頁)
この点について、最高裁は次のように判断しました。※下線、太線はコラム執筆者による。
民法916条の趣旨は,乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡したときには,乙から甲の相続人としての地位を承継した丙において,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することになるという点に鑑みて,丙の認識に基づき,甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めることによって,丙に対し,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することにあるというべきである。
再転相続人である丙は,自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって,当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではない。また,丙は,乙からの相続により,甲からの相続について承認又は放棄を選択し得る乙の地位を承継してはいるものの,丙自身において,乙が甲の相続人であったことを知らなければ,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできない。丙が,乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず,丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって,甲からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは,丙に対し,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916条の趣旨に反する。
以上によれば,民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。
3 さいごに
再転相続の場合は、丙が乙からの相続により、甲の相続人としての地位を承継た事実を知った時から熟慮期間が進行することが明らかになりました。
弁護士: 伊藤由香