暗号資産(仮想通貨)の遺産分割対象性
遺産分割・遺留分
暗号資産(仮想通貨)の遺産対象性
1) 暗号資産(仮想通貨)とは?
暗号資産(仮想通貨)とは、インターネットを通じて不特定多数の間で商品等の対価として使用できるものです。(なお、正確には、「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(中略)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」(同法2条5項1号)等と資金決済に関する法律で定義されてています。)
暗号資産(仮想通貨)の取引量は、ピットコインなどを筆頭に、近年増加傾向にあります。
そうなると、「亡くなられた方(被相続人)が多額の暗号資産(仮想通貨)を保有していた」といった事態も生じ得るわけですが、そのような場合、暗号資産(仮想通貨)は、
① 相続の対象財産に当たるのでしょうか
② また、(相続の対象財産に当たる場合)遺産分割の対象となるのでしょうか。
2) 暗号資産(仮想通貨)の相続財産対象性(①)
まず、以下の理由から、①暗号資産(仮想通貨)は相続の対象財産に当たるといえます。
すなわち、民法896条本文は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と定めるところ、上記のとおり、暗号資産も財産的価値を有するものである以上、同条が定める相続の対象になる財産に当たることは明らかです。
また、国税庁の令和3年12月22日付け「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」も、暗号資産(仮想通貨)を相続により取得した場合、同資産が相続税の課税対象になると規定しており、暗号資産(仮想通貨)が相続の対象財産であることが前提となっています。
3) 暗号資産(仮想通貨)の遺産分割対象性(②)
この点について言及した裁判例はまだありません。
けれども、現在の実務においては、預貯金と同様に、暗号資産(仮想通貨)を遺産分割の対象とするのが相当と考えられているようです。
この解釈に当たり重視すべきは、最高裁による平成28年の決定(最高裁大法廷平成28年12月19日決定)で、同決定は、預貯金債権について、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないとして、可分な金銭債権である預貯金債権につき、遺産分割の対象となるとしました。同決定は、その理由として、
❶ 遺産分割が共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから、被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましいこと
❷ 遺産分割手続を行う実務上の観点からは、評価についての不確定要素が少なく、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請が広く存在すること
を挙げていますが、暗号資産(仮想通貨)に関しても、❶は勿論、❷についても、暗号資産(仮想通貨)が取引所の運用上、取引所のレートによって金銭に換価した上で返金を受けることができ、評価についての不確定要素が少なく、預貯金等と同様に、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たって調整に資する財産といえることから、上記❶❷のいずれの理由も満たすものとして、同決定の趣旨に沿う、すなわち遺産分割の対象となると解釈できます。
4) 遺産分割の対象となる場合の取り扱い
暗号資産(仮想通貨)が遺産分割の対象になる場合、まず、その評価方法については、一般社団法人日本暗号資産取引業協会が公表している参考価格や、(取引所に預託している場合)当該取引所のレートで評価するといった方法が考えられます。
また、分割方法については、株式や有価証券同様、現物で取得する方法や、換金後に分配する方法等が考えられます。
以上
弁護士: 原 萌野