持戻し免除の意思表示と遺留分減殺

遺産分割・遺留分

 特別受益にあたる贈与についてされたいわゆる持戻し免除の意思表示が遺留分減殺に減殺される場合があります。

1 遺留分算定の基礎となる財産への算入

 最高裁平成24年 1月26日決定においては、「遺留分権利者の遺留分の額は,被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え,その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,それに遺留分割合を乗ずるなどして算定すべきところ(民法1028条ないし1030条,1044条),上記の遺留分制度の趣旨等に鑑みれば,被相続人が,特別受益に当たる贈与につき,当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「持戻し免除の意思表示」という。)をしていた場合であっても,上記価額は遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるものと解される。」と判示されています。

 したがって、被相続人が持戻し免除の意思表示をしている場合であっても、当該特別受益にあたる贈与に係る財産の価額は、遺留分算定の基礎となる財産へは参入されることとなります。

2 持戻し免除の意思表示が減殺された場合の効果

 最高裁平成24年 1月26日決定においては、「本件遺留分減殺請求により,抗告人らの遺留分を侵害する本件持戻し免除の意思表示が減殺されることになるが,遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺された場合,持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失効し,当該贈与に係る財産の価額は,上記の限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解するのが相当である。」と判示されています。

 最高裁は、持戻し免除の意思表示が上記の限度で失効した場合に、その限度で当該贈与に係る財産の価額を相続財産とみなして各共同相続人の具体的相続分を算定すると、上記価額が共同相続人全員に配分され、遺留分権利者において遺留分相当額の財産を確保し得ないこととなり、上記の遺留分制度の趣旨に反する結果となることは明らかであるとして原審の判断を否定しました。

弁護士: 赤松和佳