配偶者以外の相続人の居住権
遺産分割・遺留分
1 はじめに
2020年4月から施行された改正民法においては、被相続人の配偶者に対して、遺産である家に居住し続けることを認める配偶者居住権に関する規定が新設されました。もっとも、この配偶者居住権は、文字通り、配偶者にのみ認められるものです。
本記事においては、被相続人の子や親等の配偶者以外の相続人が、遺産である家に居住し続けることができるかという点について解説します。
2 相続人による無償の居住権を認めた判例
最高裁判所第三小法廷判決平成8年12月17日・民集50巻10号2778頁は、被相続人の死後も遺産である家に居住を続ける相続人に対して、他の相続人及び遺贈を受けた者らが賃料相当額の金銭を請求した事案において、以下のとおり判示しました。
「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。
けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。」
3 相続人に無償の居住権が認められるための要件と効果
上記判例によれば、相続人は、遺産である家について、
①相続開始前から被相続人と同居してきたこと
②当該同居について被相続人の許諾を得ていたこと
の両方の要件を充足することで、被相続人の死亡後も無償で当該家に居住することができる旨の合意があったと推認されることになります。
もっとも、あくまで要件を充足する場合に、遺産である家への無償の居住を「推認」するという構成をとっておりますので、この推認を覆す事情、上記判例でいうところの「特段の事情」がある場合には、無償で居住する権利が否定されることになります。
無償で居住する権利が認められる場合の居住期間については、「被相続人の死亡後少なくとも遺産分割終了までの間」と判示されております。この期間の解釈については、上記改正民法において配偶者短期居住権の終期を、遺産分割により当該居住建物の帰属が決定した日又は相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い方としていることから(1037条1項1号)、同様に少なくとも相続開始から6か月間は認められると解する余地があるものと思われます。
いずれにしても、上記判例が認めるのは無償の居住権、すなわち使用貸借権に過ぎず、権利としては脆弱ですので、被相続人の死後も遺産である家に確実に居住を続けることをご希望の場合は、弁護士に相談する等して被相続人の生前から対策を講じるのが重要です。
弁護士: 土井將