遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲
遺産分割・遺留分
相続人の一人が相続開始時後、かつ、遺産分割前に被相続人名義の預金を使い込んだ場合、使い込まれた預金は、遺産分割手続上どのように処理されるのでしょうか(被相続人の生前に相続人の一人が被相続人名義の預金を使い込んだ場合の使い込まれた預金の処理についてはこちらの記事をご参照ください。)。
遺産分割の対象となるのは、相続時かつ遺産分割時に存在する財産に限られるため、使い込まれた預金は、原則として遺産分割の対象とはなりません。
そして、従前、この点に関する明文規定やこの点について明確に言及した判例がなかったことから、相続人の一人が遺産分割前に処分した遺産に属する財産については、上記原則に従い、遺産分割の対象とされることなく、民事訴訟において、不当利得(民法703条)、あるいは不法行為(民法709条)の問題として処理され、相続人全員が同意した場合は、例外的に当該処分された財産についても遺産分割の対象とするという運用がとられていました。
しかしながら、遺産分割前に遺産に属する財産を処分した相続人が、当該処分された財産についても遺産分割の対象とすることについて同意することは考え難く、実際、処分された財産が遺産分割の対象となることは多くありませんでした。
このような実態を踏まえ、平成30年相続法改正により、遺産分割前に遺産に属する財産を処分した相続人を除く相続人全員が同意した場合、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができることとなりました(民法906条の2第2項)。
この規定については、同じく平成30年相続法改正により新設された民法909条の2(この規定については、こちらの記事をご参照ください。)との優先関係や、そもそも相続人間で誰が遺産分割前に遺産に属する財産を処分したのかという点に争いがある場合の処理等が問題になります。これらについては、次回の記事で取り扱います。
弁護士: 林村 涼