海外在住の方の遺言書作成

遺言作成

1 相続に関する裁判の管轄

日本人の方が海外に移住され、そのまま海外で亡くなるというケースも多くあります。相続について日本の裁判管轄が認められるのは、以下の家事事件手続法3条の11第1項に基づき、原則として「相続開始の時における被相続人の住所又は居所が日本国内にあるとき」に限られるとされています。

第三条の十一:裁判所は、相続に関する審判事件(別表第一の八十六の項から百十の項まで及び百三十三の項並びに別表第二の十一の項から十五の項までの事項についての審判事件をいう。)について、相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。

2 自筆証書遺言がのこされていた場合

海外在住の方においては、遺言書を作成される際、公正証書遺言を作成しようとすると日本に一時帰国しなければならないので、自筆証書遺言をのこされていることも比較的多いです。しかしながら、自筆証書遺言であっても法務局において保管していた場合を除き、自筆証書遺言については、家庭裁判所での検認手続き(検認手続きについては、こちらのコラム「遺言の検認について」をご参照ください。)が必要であるところ、1に記載のとおり、海外で亡くなられた故人の自筆証書遺言については、日本の裁判管轄が認められないことになっております。

3 緊急管轄

2に記載のように、日本の裁判管轄が必ずしも認められない相続の事件を日本の裁判所にて審理してもらう手段として、「緊急管轄」を認めてもらう方法が考えられます。

現在、緊急管轄を認める明文規定はないものの、家事事件手続法3条の11第1項のとおり、「相続開始の時における被相続人の住所又は居所が日本国内にあるとき」にしか日本の裁判管轄が認められないとすると、不合理な状況も有りえますので、実務上、裁判所に「緊急管轄」を認めてもらう方法が認められています。被相続人が亡くなった国には当該相続手続の制度がないこと、又はこれがある場合でもこれを利用できないか、日本で効力が認められないこと、その他、緊急管轄を認める必要性を日本の家庭裁判所(東京家庭裁判所)にて立証していくことになります。

緊急管轄を認めるか否かは家庭裁判所の判断次第ですので、海外在住の方が遺言書を作成するにあたっては、弁護士にご相談のうえ、公正証書遺言や、法務局の自筆証書遺言の保管制度を利用されることを推奨いたします。

 

弁護士: 立野里佳