相続開始後の使途不明金について

遺産分割・遺留分

1 はじめに

 被相続人の死亡後に被相続人名義の口座から預金が勝手に引き出されていたことが発覚した場合、勝手に引き出した者に対し、不当利得返還請求をすることが可能です。

2 東京地裁令和3年9月28日判決

(1)概要

 東京地裁令和3年9月28日判決(以下、「本件裁判例」といいます。)では、被告が被相続人死亡後、被相続人名義の預金口座から金員を出金した事案で、以下のとおり判示し、本件死後出金のうち、被告の法定相続分を超過した額のみが不当利得にあたるとして、その限度で不当利得返還請求を認めました。

(2)被告の法定相続分を超過した金額のみ不当利得にあたること

 本件裁判例では、原告は、被告の特別受益等を考慮すると、本件死後出金に関する被告の具体的相続分は0であるから、被告による本件死後出金はその全額について法律上の原因のない利得だとし、全額の返還請求をしました。

 しかしながら、判決では、以下のとおり判示し、本件死後出金のうち、被告の法定相続分を超過した金額のみ不当利得にあたるとして被告の請求を一部認容しました。

『具体的相続分とは、遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって、それ自体が実体法上の権利関係に当たるものではない。したがって、本件死後出金がなされた時点で、Xが本件口座に関し、具体的相続分に相当する実体法上の権利を有していたとはいえないし、Yに法定相続分に相当する実体法上の権利がなかったともいえない。そうすると、Yによる、本件死後出金は、Yの法定相続分の範囲にとどまる限り、法律上の原因のない利得ということはできないし、Xにそれに対応した損失があるともいえず、本件死後出金の全額について、Yの不当利得が成立するとはいえない。本件死後出金の額合計259万6432円の2分の1に相当する額129万8216円を超えた部分の限度で不当利得の成否が問題となるにすぎないというべきである。』

弁護士: 中川真緒