遺言書の破棄隠匿行為と相続欠格事由
遺産分割・遺留分
1 遺言書の破棄隠匿行為
民法891条本文および同条5号により、相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者は、相続人となることができません。
2 例外-相続に関する不当な利益を目的としない遺言書の破棄隠匿行為
しかし、判例では、相続に関する不当な利益を目的としない遺言書の破棄隠匿行為であった場合、相続欠格事由には当たらないとされています。つまり、破棄隠匿行為が故意で行われることに加え、当該行為により不当な利益を得ようとする意志も必要になるとされています。
最判平成9年1月28日民集51巻1号184頁
被相続人Aが死亡し、その遺産全部を長男Y1が相続する旨の遺産分割協議が成立しました。被相続人は、生前Y2社に自己所有の土地を売却し、Y2社から売買代金を全額受領していたが、移転登記未了のまま死亡しており、「Y2に売却した土地の売却代金はB社に寄付するから、B社の債務弁済に充てること」という内容の遺言書を残していました。上記遺産分割協議中には、Y1はAから預かった遺言書が所在不明になっており、他の相続人に示すころができませんでした。共同相続人Xらが、Y1とY2を相手方として、Y1が遺言書を破棄又は隠匿したので相続欠格者であると主張し、長男が相続賢を有しないこと等の確認および長男およびXへの移転登記等の抹消登記を求めた事件です。
「相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法八九一条五号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である。けだし、同条五号の趣旨は遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするところにあるが(最高裁昭和五五年(オ)第五九六号同五六年四月三日第二小法廷判決・民集三五巻三号四三一頁参照)、遺言書の破棄又は隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、これを遺言に関する著しく不当な干渉行為ということはできず、このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁を課することは、同条五号の趣旨に沿わないからである。」
弁護士: 仲野恭子