遺言に基づく預貯金の払戻し
遺産分割・遺留分
1 遺言執行者が指定されている場合
1人の相続人に預貯金を相続させるという遺言があり、かつ、遺言執行者が指定されている場合、遺産たる預貯金の解約払戻しについては、法的には遺言執行者が単独で手続が可能です(民法1014条3項)。
しかしながら、金融機関によっては、遺言執行者による実際の解約払戻し手続を進めるにあたり、相続人全員の同意書を要求したりする場合もあり、実際の手続に際しては、対象の金融機関への確認が必要となります。
2 遺言執行者が指定されていない場合
1人の相続人に預貯金を相続させるという遺言があり、かつ、遺言執行者がしていされていない場合、金融機関に対する預貯金債権は、何らの行為も要せず、被相続人の死亡時に直ちに当該相続人に承継されます(最判平成3年4月19日)。したがって、法律上は、当該相続人が単独で金融機関に対して払戻しの請求を行えるはずであり、裁判例でもそのことを前提とした判断がされています(東京地判平成25年12月19日)。
しかしながら、こちらも金融機関によっては、実際の解約払戻しの手続の際には、他の相続人の同意書や印鑑証明書等の提出を求める場合もあり、遺言執行者が指定されないる場合よりもそれらを求められる可能性が高いですので、やはり対象の金融機関への確認が必要です。
3 小括
以上のとおり、預貯金の払戻しについては、遺言執行者や遺言により相続することとされた相続人が法的には単独で金融機関に対する預貯金債権を有しているにもかかわらず、実際の手続において単独では手続ができず他の相続人の協力が必要になるという場合もあるので注意が必要です。
実際、私が対応した件でも、遺言執行者として預貯金の払戻しを請求したのですが、相続人全員の印鑑証明書が必要であると言われたケースがありました。その件では、支店担当者ではなく当該金融機関の相続に関する窓口に連絡をして説明することで、他の相続人の印鑑証明書を提出することなく単独で手続を行うことができました。このように、実際に金融機関に確認する場合は、相続に関する窓口を利用することでスムーズに手続ができる場合もあります。
遺言で自分が預貯金を相続することになったのに、金融機関が手続に応じてくれないという場合は、ぜひ当事務所にご相談ください。
弁護士: 相良 遼