代償分割の際の留意点

遺産分割・遺留分

1 代償分割において留意すべき事項

 遺産の中に不動産があり、その他の遺産が僅少な場合、相続人の一人が当該不動産を取得し、他の相続人にはその代償として金銭等を交付するという遺産分割を行うことがよくあります。このような分割方法を代償分割といいます。特に、遺産分割当時に相続人が現預金を有していない場合には、所有権を取得した相続人が代償分割後に当該不動産を売却し、同売却代金から諸経費を引いた残額を他の相続人に相続分に応じて分配するという手法がよく用いられます。しかし、このような方法の代償分割において公平な遺産分割を実現するためには「譲渡所得税の課税」「健康保険料・介護保険料等の増加」「自己負担限度額の増加に伴う治療費の増額」など留意すべき事項があります。

 譲渡所得税とは、主に不動産を売却した際に当該売却から得た利益に対して課税される税金です。代償分割によって不動産を取得した相続人が、その後に当該不動産を売却した場合、同売却で得た利益について譲渡所得税が課税されます。その際に課税される対象者は不動産を売却した相続人のみであり、その他の相続人には課税されません。譲渡所得の計算に当たっては、「代償分割により負担した債務に相当する金額は、当該債務を負担した者が当該代償分割に係る相続により取得した資産の取得費には算入されない」とされています(所得税基本通達38-7⑴)。また、不動産を売却した相続人は、不動産を売却した翌年3月頃に確定申告を行って譲渡所得税の申告を行う必要がありますが、確定申告を税理士に依頼した場合にはその税理士費用もかかってきます。そのため、遺産分割を行う場合には、上記の譲渡所得税及びそれに関連する経費も、売却代金から差し引く諸経費として考慮しなければ公平な分割にはならない場合があります。

また、上記の通り譲渡所得が発生することから、翌年の社会保険料が増額となりますし、医療費の自己負担限度額も増加する可能性があります。これらの不利益も、所有権を取得し売却を行った相続人のみが負担することになるため、厳密に公平な遺産分割を行うにはこれらの点にも留意する必要があります。

2 解決策

 上記の代償分割の問題点を解決するために、換価分割の方法が有効であることは他のコラムでご説明させていただいた通りです。もっとも、相続人が多数に上る場合などには上記の換価分割の手法が煩雑になり、代償分割を選択せざるを得ないケースもあります。

 代償分割による場合、前述の通り譲渡所得税の課税や社会保険料の増額等の考慮が必要になる場合があります。しかし、これらの金額は税法上の特例の適用の可否やその他の所得等の金額により定まるもので、特に自己負担限度額は不動産売却翌年の1年間の治療費の支払実績が確定して初めて定まるものです。したがって、不動産を売却してから実際にこれらの諸経費を控除して他の相続人に分配するまでに事案によっては2年近くの期間を要してしまうこともありえます。そのため、実際の解決としては、遺産分割の公平さと所要期間のバランスをご依頼者と相談し、最も納得感の高い方法での分配を行うことが多いです。たとえば、譲渡所得税や社会保険料の増額分については概算額を算出し、自己負担限度額の増加に伴う治療費の増額分についてはこれまでの治療実績から想定額を算出します。その上で、不動産売却から数か月後にこれらの概算額や想定額を基に一度目の分配を行い、その後上記の諸経費額が確定した段階で精算を行い二度目の分配を行う等のやり方が考えられます。

 代償分割はよく用いられる手法ではありますが、代償分割を行う際には弁護士が上記の点について十分に情報提供をし、ご依頼者様において検討した上で判断することで納得感が高まるものと思われます。代償分割をご検討の方は、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

弁護士: 国府拓矢