遺留分の事前放棄
遺産分割・遺留分
1 相続開始前の遺留分放棄
相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力を生じます(民法1049条)。このように、家庭裁判所の許可が必要とされていることの趣旨は、遺留分権利者が放棄を強要されることを防ぐためであると言われています。
では、家庭裁判所はどのような基準で許可の判断をするのでしょうか。遺留分放棄に必要とされる要件は①遺留分放棄者の真意によるものであること、②合理的理由・必要性があること③放棄に見合う代償財産の提供があることとされています。(コラム「遺留分放棄について」参照)。
2 遺留分放棄の事前放棄が却下された事例
それでは、具体的にどのような場合に遺留分の事前放棄が却下されるのでしょうか。
■5年後に300万円の贈与を受ける契約をもとになされた遺留分放棄の許可申立
(神戸家裁昭和40年10月26日審判)
「そこで考えてみるに、本件調査の結果(申立人審問の結果を含む)によると、申立人主張の上記事実は、すべてこれを認めることができる。しかしながら、申立人が父金作から既に金三〇〇万円の贈与をうけ了つているというのであれば兎も角、本件においては、唯単に五年後に金三〇〇万円を贈与するという契約がなされているに過ぎないのであつて、それが果して現実に履行されるか否かについては、現在のところ、たやすく予断を許さないのであるから、このような事情の下で遺留分の放棄を許可するときは、他日申立人にとつて、予想外の事態を招き、思わぬ損害を惹起する虞れがないとはいえない。そうすると本件遺留分放棄は相当でないから、それを許可することはできないという外はない。」
■申立人と被相続人の間に婚姻に関する長期の争いがあった場合の遺留分放棄の許可申立
(和歌山家裁妙寺支部昭和63年10月 7日審判)
「申立人は当裁判所に対し、被相続人の相続財産の遺留分を放棄することは自らの意思であると述べているけれども、前記認定した事実によれば、申立人と被相続人の間で、申立人の英人との結婚問題につき長い期間にわたり親子の激しい対立があり、被相続人の申立人に対する親としての干渉が繰り返された結果、申立人が家を飛び出し、英人と同棲する事態となり、遂には被相続人の意思に反してでも、申立人自らの意思で婚姻届をするに至つた経過があるうえ、本件申立もその婚姻届の翌日になされ、しかも被相続人からの働き掛けによるもので、申立人の本件申立をした動機も、被相続人による申立人に対する強い干渉の結果によることも容易に推認できるところである。
これらのことからすると、本件申立は必ずしも申立人の真意であるとは即断できず、その申立に至る経過に照らしても、これを許可することは相当でないといわざるをえない。」
遺留分の事前放棄をお考えの方はぜひ一度弁護士にご相談ください。
弁護士: 田代梨沙子