遺産分割協議を無効とすることは可能か
遺産分割・遺留分
一旦成立した遺産分割協議について、錯誤等を理由に無効とすることはできるのでしょうか。
遺産分割協議の無効を主張する場合、遺産分割協議無効確認請求訴訟や遺産分割協議不存在確認請求訴訟の提起、遺産分割協議が無効であることを前提として不当利得返還請求訴訟を提起することが考えられますが、このような主張が認められるのかについて、過去の判例を検討致します。
東京地裁令和3年8月4日判決では、別の相続人が遺産分割協議書に押印していた場合でも、それが遺産分割協議の不存在を主張する当該相続人の意思に基づいてなされたものといえるとし、本件遺産分割協議書1及び本件遺産分割協議書2はいずれも真正に成立しており、また、実際にも当該相続人はその内容について了承していたといえるとして、本件遺産分割協議1及び本件遺産分割協議2はいずれも存在している(不存在の主張は認められない)と判示されました。
東京地裁平成28年9月8日判決では、不存在を主張する相続人が、遺産分割協議書に自ら署名・押印した事実が認められる以上、遺産分割協議書は真正に成立したものと推定され、これを覆すに足る証拠がないとして、遺産分割協議の成立が認められ、不存在の主張は排斥されました。
東京高裁平成28年5月17日判決でも、寄与分についての説明に誤りがあったとして、遺産分割協議の錯誤無効が主張されましたが、不動産の価額がいくらであるかは、遺産全体の価額における寄与分の価額の割合としては大きな影響を与えるものとはいえないとして、錯誤無効の主張が排斥されました。
一方で、東京地裁平成27年4月22日判決では、原告である相続人が、遺産分割協議の当時、多額の預貯金や遺産分割協議書に記載されていない財産の存在を知らなかったという場合において、同人は、遺産分割協議書に被相続人のほぼすべての財産が記載されていると誤診していたとされ、遺産分割協議が錯誤無効となると判断されました。
このように、一旦成立した遺産分割協議が無効となることもありますが、遺産分割協議書に自ら署名押印をしていれば、その遺産分割協議書は真正に成立したものを推定されるので、これを覆すことは非常に難しいと考えられます。
遺産分割協議書を作成される前に、一度専門家にご相談下さい。
弁護士: 斉藤聡子