貸金庫と「凍結」

遺産分割・遺留分

1 はじめに

 被相続人が生前に金融機関と貸金庫を開設していた場合、その中には、被相続人の遺言書や遺産が入っている可能性がありますので、遺産分割において、貸金庫がある場合には確認をする必要があります。
 この貸金庫については、開設されている金融機関に対して、被相続人の死亡を伝えた場合、預貯金口座と同じように「凍結」されてしまいます。今回のコラムでは、相続手続において、貸金庫が「凍結」されるまでに生じ得る問題について検討を行います。なお、「凍結」された後の貸金庫の開閉のための手続については、こちらのコラムをご参照ください。

2 「凍結」されるまでの貸金庫の開閉による相続手続上の問題点

 貸金庫は、金融機関や開設する貸金庫の種類により様々だとは思いますが、「カード」や「鍵」や「暗証番号」で開閉することができるようになっている場合もあります。この場合、例えば、家族がこれらの物や情報を有している場合はその家族も貸金庫の開閉が事実上可能です(預貯金の場合にキャッシュカードと暗証番号さえあればATMで自由に引き出しができてしまうのと同じです。)。
 したがって、被相続人が亡くなっても、それを金融機関に伝えず「凍結」がされていない間は、カードや鍵や暗証番号を有している相続人の1人が、他の相続人に無断で勝手に貸金庫の開閉を行うことが可能になってしまうのです。これが行われると、相続手続との関係では、「遺言書が入っていた場合は内容を確認して自分に不利なら隠す」遺産産が入っていた場合に勝手にその存在を隠して自分だけの物にする」といった問題行動が行われる可能性が指摘できます(*1)。

3 小括

 このような事態を防ぐため、相続が発生した場合は速やかに金融機関に連絡をして貸金庫も「凍結」をすることが重要です。預貯金の場合も凍結前にATMから出金することが事実上できてしまうことはよく知られていると思いますが、これは後に取引履歴等を見れば出金の事実が確認できるのに対し、貸金庫の場合は内容が抜き取られてしまうと確認が難しくなってしまいますので、早期に凍結手続を行うことが重要です。

*1:これらの行為は決して許されるものではありません(遺言書の隠蔽は相続人の欠格事由に該当し(民法891条5号)、私用文書等毀棄罪(刑法259条)が成立する可能性もあります。また、遺産を1人で持ち帰る行為には窃盗罪(刑法235条)等が成立する可能性もあります。)。本コラムは、そのような行為が事実上行われてしまう可能性があることを前提にそれを防ぐ方法を述べることの重要性について述べることを目的とするものであり、そのような行為を行うことを推奨するものではありません。

弁護士: 相良 遼