推定相続人の廃除が認められた審判例

遺産分割・遺留分

1 はじめに

本稿では、推定相続人の廃除を認めた家事審判例を紹介いたします。
なお、推定相続人の廃除の要件等については、コラム「推定相続人の廃除」をご参照ください。

 

2 神戸家庭裁判所伊丹支部審判平成20年10月17日・家庭裁判月報61巻4号108

被相続人である父親が遺言により、子(相手方)の推定相続人廃除を記載した事案において、裁判所は、以下の事実関係を認定したうえで、相手方が約20年間に亘り被相続人を経済的、精神的に苦しめてきたこと、その苦痛が死亡時まで続いていたこと、被相続人の相手方に対する怒りが相当激しいものであったことを理由として、相手方に「著しい非行」(民法892条)があったとし、推定相続人からの廃除を認めました。

【事実関係】

  • 相手方が競馬、パチンコや車の購入、女性との交際費等で借金を重ね、被相続人に度々返済させるなどいわゆる尻ぬぐいを長年にわたってさせており、しかも被相続人が相手方から返済を受けられなかった出費の合計額は2000万円以上に上っており、被相続人死亡時の被相続人の財産1000万円相当に比べて相当過大であったこと。
  • 相手方の借金の借入先にはヤミ金が含まれており、関係者が被相続人の自宅を見張ったり押しかけたことがあり、近所にも聞こえるような大声で罵倒し警察を呼ぶ事態も生じたことなどがあったこと。
  • 被相続人が生前に相手方に対して直接「勘当」を言い渡したこと。
  • 相手方において、借金の末に破産、免責の決定を受けたほか、破産、免責決定後も、改心したとまではいいがたく、被相続人にまで再び引越代の無心をしたこと。

 

3 京都家庭裁判所審判平成20年2月2日・家庭裁判月報61巻4号105

申立人である父親が、子(相手方)の推定相続人からの廃除を求めた事案において、裁判所は、以下の事実関係を認定したうえで、相手方がこれまで窃盗等により何度も服役し、申立人をして被害者らへの謝罪と被害弁償をさせたり、相手方の借金返済等に努めさせたことで、申立人に対して多大の精神的苦痛と多額の経済的負担を強いてきたことを理由として、相手方に「著しい非行」(民法892条)があったとし、推定相続人からの廃除を認めました。

【事実関係】

  • 相手方がこれまで窃盗等を繰り返して何度も服役し、審判係属時も常習累犯窃盗罪で懲役2年の刑に処せられて在監中であったこと。
  • 相手方が交通事故を繰り返したり消費者金融から借金を重ねたりしながらも、賠償や返済をほとんど行わなかったこと。
  • 申立人が相手方の犯罪の被害者に弁償した金額や、相手方の借金を返済した金額が総額400万円~500万円に及んでいたこと。
  • 申立人が相手方に対して推定相続人廃除の話をした際、相手方が自身の非行について申立人にも責任の一端があるかの如く述べたうえ、廃除をするのであれば500万円~600万円もの金銭を手切れ金として支払うよう要求したこと。

 

4 福島家庭裁判所審判平成19年10月31日・家庭裁判月報61巻4号101

被相続人である母親が遺言により、子(相手方)の推定相続人廃除を記載した事案において、裁判所は、以下の事実関係を認定したうえで、相手方が被相続人を含む親族を悪意により遺棄し、これが相続的共同関係を破壊するに足りるものであることを理由として、相手方に「著しい非行」(民法892条)があったとし、推定相続人からの廃除を認めました。

【事実関係】

  • 被相続人が生前、70歳を超えた高齢であり、身体障害者1級の認定を受けて介護が必要な状態であったにもかかわらず、相手方が被相続人の介護を事実上妻に任せたまま出奔したこと。
  • 相手方において、妻と調停離婚した後にも、未成年の子ら3名や被相続人の扶養料を支払うことも全くなく、被相続人の夫から相続した田畑2588平方メートルを被相続人や親族らに知らせないまま売却し、それ以後も被相続人や子らに対して自ら所在を明らかにしたり扶養料を支払うことがなかったこと。
  • 相手方が電報の知らせにもかかわらず、被相続人の葬儀に参列しなかったこと。
  • 相手方自身が、相手方の子らが相続するのはやむを得ない旨を審判において主張していたこと。

弁護士: 土井將