審判による代償分割②

遺産分割・遺留分

1 はじめに

 コラム「審判による代償分割①」で、審判による代償分割が認められる場合についての裁判例をご紹介しましたが、本コラムでは、実際にどのような内容の代償分割が審判によりなされるのか、特に、相続財産を承継する相続人による代償金の支払方法についての審判の内容についてのお話をしたいと思います。

2 必ず「相続財産を承継する者の支払能力」が審理されなければならない

 コラム「審判による代償分割①」でご紹介させていただいた裁判例(大阪高決昭和54年3月8日家月31巻10号71頁)では、「相続財産を承継する相続人に債務の支払能力がある」ことが審判による代償分割に必要である旨の判示をしておりましたが、最高裁判所の判例(最決平成12年9月7日家月54巻6号66頁)でも、「家庭裁判所は、特別の事由があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物をもってする分割に代えることができるが(家事審判規則109条)、右の特別の事由がある場合であるとして共同相続人の一人又は数人に金銭債務を負担させるためには、当該相続人にその支払能力があることを要すると解すべきである。」として、審判による代償分割をするためには。相続財産を承継する相続人に支払能力があることが必要であると明確に判示しています(この最高裁判例は、原審ではこの点についての審理がされていないとして差戻しの判断をしました。)。

3 「支払能力」を補完する内容の審判(取得する遺産に抵当権を設定する内容の審判)

 ここでいう「支払能力」が、「代償金を一括で支払う能力」を意味するとなれば、審判による代償分割が可能なケースがかなり限られてしまうと考えられます。実際の審判では、相続財産を承継する相続人が、当該承継した相続財産に、代償金を被担保債権とする抵当権の設定をすることを審判の内容とし、「支払能力」がないから代償分割ができないという結論を回避するための工夫がされていると考えられます。

  例えば、東京家審昭和50年3月10日家月28巻3号60頁は、「・・・その調整として、申立人から相手方らに対し同人らの相続分の割合に応じて弁済期を定めて調整金を支払わせるのが相当であり、且つ右支払確保のため申立人の取得土地の上に相手方らのためその調整金債権を担保するためそれぞれ抵当権を設定させることとする。凡そ遺産分割に当つては一切の事情を考慮してこれを決すべきものであるところ、本件調整金の数額は稍大きくその支払確保の必要があるものと思料され遺産分割の審判においては、国が後見的に措置しうべきもので本件のような抵当権設定の方法をとることも許容されるところと思料しすべての事情を勘案して、上記のとおり定めた。」として、以下のような審判をしました。

「申立人は別紙目録(3)の土地に対し前項の各遺産分割調整金債権につき相手方Aのため第一順位の、同Bのため第二順位の、同Cのため第三順位の、同Dのため第四順位の、同Eのため第五順位の、同Fのため第六順位の抵当権設定をなし、その登記手続をなすべし。」

弁護士: 相良 遼