不動産の遺産分割における税金・社会保険料等

遺産分割・遺留分

1 不動産の遺産分割

 遺産分割の際に不動産の取得を希望する相続人がいない場合、「第三者に売却して売却金額を相続人で分配する」ということがよくあります。この場合、相続人の1人が不動産を取得する代わりに他の相続人には代償金を支払うという「代償分割」による遺産分割を行う方法があり得ます。一度、相続人全員で法定相続分通りに相続してから売却する方法がありますが、この場合、一度相続人全員の共有名義の相続登記をする必要があり、売却先との売買契約書に調印する売主が複数人となること等から手続が煩雑になるため、「相続人1人の単独名義にしてから第三者に売却する」という需要は高いと言えます。

2 代償分割の場合の税金・社会保険料

 しかしながら、代償分割による場合、第三者に売却するのは相続人のうちの1人なので、不動産譲渡所得税が当該相続人1人にかかってしまうという問題があります。また、当該譲渡により譲渡所得が生じることで翌年の社会保険料も高くなってしまいますが、そのデメリットも単独相続した相続人だけが受けてしまいます。わざわざ単独名義人となり、売却先も見つけて売買契約書等の手続を行うという役割を引き受けた相続人だけが、税金や社会保険料などの負担を負うという結論になってしまうので、そのような「代償分割」による不動産の遺産分割は避けるべきと言えます。

3 「換価分割」による方法

 そのような「代償分割」のデメリットを回避する方法として、「換価分割」という概念を用いることが考えられます。換価分割とは、不動産を未分割の状態で換価し、その対価として得られる金銭を共同相続人間で分割する方法です。この換価分割という概念を用いれば、実際には「相続人1人の単独名義にしてから第三者に売却する」という方法でも、当該1人の相続人だけではなく、相続人全員が譲渡所得税や社会保険料の負担をするという結論にすることが可能です。裁判例(横浜地判平成3年10月30日判時1440号66頁)でも、「換価分割の場合に遺産を処分するのは、形式上は共同相続人中の特定の者が代表してその名で行うこともあろうが、実質的には共同相続人全員であり、したがって、当該譲渡所得は全員に帰属し、これに対する所得税は全員が負担すべきことになる。」とされています。なお、上記横浜地判は、共同相続人の一人が遺産分割協議の結果取得した収入は「代償分割」による代償金であると主張して譲渡所得税の決定処分の取消しを求めた事案ですが、横浜地判は「換価分割」による譲渡所得税の決定処分は適法であると判断しており、その判断は上告審でも支持されています(最判平成5年4月6日)。

4 換価分割の場合の具体的な遺産分割協議書の記載方法

 したがって、「相続人1人の単独名義にしてから売却する」という手続の便宜上の効用を得ながら、「その1人だけが税金や社会保険料の負担を被る」という結論を回避するためには、「換価分割」であることが明確になるように遺産分割協議書を作成することが必要になります。そのような遺産分割協議書の記載例としては、次のような記載が考えられます。

一 相続人Aは、下記の不動産を相続する。

二 前項の単独相続は、換価分割のための単独相続であり、相続人Aは、前項の不動産を速やかに売却・換価するものとし、相続人全員は、当該不動産の売却代金から、売却に関する一切の費用(不動産仲介手数料、登記のための登録手数料、司法書士の費用その他の登記費用等)、前項の相続登記のために要した諸費用(登録手数料及び司法書士の費用等)及び売却が完了するまでに要する固定資産税、管理費用等の一切の費用を控除した残額を、全相続人の間で法定相続割合に従って分割して取得する。

弁護士: 相良 遼