養親死亡時の遺産分割協議
遺産分割・遺留分
1 設例
被相続人甲の相続人は、長男A・次男B・養子C(未成年者)の3名である。養子Cは、長男Aとその妻Dとの間の子である(つまり、Cは祖父母にあたる甲と養子縁組を行った。)被相続人甲が死亡した際、養子Cが遺産分割に関与するためにはどのような手続きが必要か。
2 検討
まず、養子Cは相続人ですが未成年者ですので、自ら遺産分割協議を行うことはできません(民法5条1項)。したがって、養子Cの法定代理人である親権者が遺産分割協議に参加する必要があります。
では、養子Cの親権者は誰でしょうか。まず、養子縁組をした場合、養子の親権者は養親になります(同818条2項)。その後、養子が成人する前に養親である祖父母が死亡した場合、実親の親権は当然には回復しないと解されています。なぜなら、民法は「死後離縁」という制度を設けていることからも分かるように、養子縁組関係の一方当事者が死亡した場合にも観念的には養親子関係そのものは存続しているとの考えに立っていると解されるためです。そのため、養子が成人する前に養親である祖父母が死亡した場合、養子には「親権者がいない」という状況になります。
この場合、考えうる手段は2つです。
①未成年後見人を選任し、未成年後見人が遺産分割協議を行う。②死後離縁により実親の親権を回復させたのちに、親権者である実親が遺産分割協議を行う。
①未成年後見人とは、親権者がいない未成年者が法律行為を行えるよう、利害関係人からの申立てにより家庭裁判所が選任する者です。通常は弁護士等が選任されます。詳細は省略しますが、同制度を利用するには、未成年後見人の報酬を支払う必要があることや、選任までに期間を要する等のデメリットもあります。
②死後離縁の方法についてはどうでしょうか。まず前提として、死後離縁の効果は将来に向かって養子縁組を消滅させることにありますので、死後離縁をしても養子Cは被相続人甲の相続権を失うことはありません。死後離縁には家庭裁判所の許可が必要ですが(811条6項)、死後離縁が認められた場合には実親の親権が復活します。では、実親(父A及び母D)が未成年者Cの親権者として遺産分割協議を行うことはできるでしょうか。それはできません。なぜなら、父Aは未成年者Cと共同相続人の立場であり、被相続人甲の遺産分割において利益相反の関係にあるからです(同826条1項)。この点、母Dは共同相続人ではないため、「父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う」(818条3項但書)という規定に則って、母Dが単独で遺産分割協議ができるようにも思えます。しかし、最高裁判例(最一小昭和35年2月25日民集 14巻2号279頁)はこれを否定しています。同判例は理由を明確に述べていませんが、学説上では「子とは利益の相反しない他の一方の親権者も、夫婦間の情愛にとらわれ、子の利益の保護のみを純粋に判断して子のために親権を行使することはできない」からであるとされています。したがって、死後離縁の方法を採る場合であっても、特別代理人の選任が必要であり、当該特別代理人と母Dが共同で未成年者Cを代理し遺産分割協議を行うことになります(上記判例)。
3 まとめ
相続対策としてよく利用される養子縁組ですが、養子が成人する前に養親である祖父母が死亡した場合、遺産分割のために以上のような手続きが必要となりますので、事前によく検討を行うことが必要です。もっとも、特別代理人の選任等で対応は可能であり、当事務所では特別代理人の選任等の実績も豊富にありますので、既に相続が開始されてしまった場合であっても、ご心配されずにご相談ください。
弁護士: 国府拓矢