遺留分減殺・侵害額請求権と保全処分(不動産に関して)

遺産分割・遺留分

※平成30年改正民法により,遺留分の制度が大きく変更されました。

本記事は、令和元年6月30日までに開始した相続について適用される法律を前提にしています。令和元年7月1日以降に開始した相続についても最後に触れます。

1 保全処分はどのような場合に有効か

 例えば、被相続人の唯一の財産である不動産が遺言によって他の相続人に全て遺贈された場合、遺留分を侵害された相続人は、遺贈を受けた他の相続人(受遺者)に対して遺留分減殺請求権を行使することによって、遺留分に応じたその不動産の持分の移転登記を求めることができます。

 ところが、他の相続人が移転登記に応じず交渉が難航している内に、その不動産が第三者に譲渡され登記も移転されてしまった場合には、もはや持分の移転登記を求めることできません(最判昭和35年7月19日。減殺請求後の目的物の処分については平成30年改正前民法1040条は適用されず第三者との間で対抗関係(177条)に立つとされています。)

 このような第三者への譲渡を防ぐために用いられる手段が保全処分です。

2 保全処分を実際に利用した例

 私が保全処分を実際に利用した例をご紹介します。

 亡くなられたのはご依頼者の父で、その相続人がご依頼者と弟でした(母は既に他界)。

 父は死亡前に遺言を書いており、不動産を含む全ての財産を弟に相続させる旨が記載されていました。ご依頼者が遺言の存在に気付いた時には、既に全ての不動産の名義が弟に変更されており、弟がいつ第三者に処分するかわからない状況でした。そのため、弁護士から内容証明郵便を送付して遺留分減殺の意思表示を行った後、共有持分移転登記請求権(=遺留分減殺請求権)を被保全権利として、遺贈された不動産を対象として処分禁止の仮処分の申し立てを行いました。申立てが認められた場合、遺贈された不動産の登記に「処分禁止の仮処分」がされている旨の記載がされることになります。万が一第三者が購入し、第三者名義に移転登記されたとしても、ご依頼者は自分への共有持分移転登記を問題なく行うことができます。

3 保全の必要性

保全処分が認められるためには「保全の必要性」を疎明する必要がありますが、本件では、受遺者である弟は共同相続人であるご依頼者に遺言の存在を知らせることなく自分に移転登記をしていたこと、弟は遺言執行者であるにもかかわらず相続財産目録も作成していないこと、遺贈された不動産に弟が住んでいるわけではなく処分される可能性が高いこと、他の財産についても遺留分減殺請求権を行使しておりその支払いのための金策として当該不動産が処分される可能性が高いことなどを主張したところ、仮処分決定が出されました。

4 担保金

 仮処分の決定をもらうには予め担保金を法務局に供託する必要があります。担保金は、仮処分を行う対象不動産の財産の評価額を基に、裁判所の裁量で決定されるものですが、事案によっては高額になることもあり注意が必要です。本件では、①厳密にいえば仮処分によって弟の処分が禁止されるのはご依頼者の遺留分に相当する持分だけですので、この点を重視すれば担保金の額もそれほど高額にはならないと予想されました。一方、②一部でも処分禁止の仮処分の登記がされていれば通常は不動産全体について処分することが事実上不可能となることから、この点を重視すれば担保金の額が高額になることが予想されました。

 結果、裁判所が決定した担保金額は「40万円」と、予想よりもかなり低い金額で、ホッとしました。

 今回仮処分の対象とした不動産の固定資産評価額に依頼者の遺留分を乗じた金額が約400万円でした。したがって、おそらく裁判所は、上記①の考え方を採用した上で、その10%を担保金額として設定したものと思われます。担保金額が低くなった要因としては、そもそも遺留分減殺請求は認容される可能性が高い類型の請求であることや、保全の必要性が高いと判断されたことがあると思います。翻って、代理人となった弁護士がこの辺りをきちんと主張し裁判所に伝えることで、担保金が低額になることもあり、それはご依頼者にとって大きな負担軽減になりますので、弁護士の腕の見せ所ではないかと思います。

5 民法改正後の保全処分

 令和元年7月1日以降に開始した相続については、改正後の民法が適用されます。

 改正後の民法では、遺留分の制度が大きく変更され、遺留分減殺請求権(物権的支配権原の回復)から遺留分侵害額請求という金銭債権に転換が図られました。

 そのため、保全処分の種類としても、前述した「処分禁止の仮処分」ではなく「仮差押」という方法を採ることになります。

 ただ、法律が変わって保全処分の種類も変わったとはいえ、「万が一の場合の備えとして保全処分をしておく」というアイデアは改正後の民法でも実現可能です。

 当事務所の弁護士は多数の保全処分の実績がありますので、「遺留分の主張をしたいが失敗しないか心配だ・・」というお気持ちを抱えておられる方は、是非一度今後の採りうる手段及び方針について当事務所にご相談いただければと思います。

弁護士: 国府拓矢