遺留分侵害額の遅延損害金について

遺産分割・遺留分

~ 遺留分侵害額の遅延損害金について ~

 

遺留分侵害額の有無や具体的金額について、相続人間で争いが生じ、事案によっては裁判までもつれ込んでしまうなど、解決まで長い時間がかかることは珍しくありません。

紛争が長期化した(しそうな)場合、紛争当事者に生じうるメリット・デメリットとして、「遺留分侵害額には遅延損害金が生じる」という点を頭に入れておく必要があります。

まず、遅延損害金とは、読んで字のごとく、金銭の支払いを期限内に行わなかった(支払いが遅れた)場合の利息のようなものです。

そして、遺留分侵害額の遅延損害金については、民法上、

【発生時期】 具体的な金額を示して金銭の支払いを求めた時(この請求が相手に届いた日の翌日)から(民法412条3項)

【金  額】 年3%の割合で(民法404条2項)

生じると定められています。

遺留分侵害額の遅延損害金は、交渉段階や家庭裁判所の調停段階では、早期紛争解決の観点から問題とされない(遺留分侵害額に加算されない)ことも多いですが、当事者間でなかなか合意できず、地方裁判所の訴訟で争い、判決が出される場合には、必ず加算されることとなります。

遺留分侵害額は、高額になることが多く、その年3%の割合の金額となると、例えば、遺留分侵害額が1000万円の場合、遅延損害金は1年間で30万円、2年間で60万円発生することとなり、遺留分侵害額を請求される側からすれば、相当な負担となっていきます。[i]

なお、発生時期に関しては注意が必要です。というのも、遅延損害金の発生時期については、上記の通り、条文上、具体的な金額を示して金銭の支払いを求めた時点からと解釈されていますので、遅延損害金を発生させるためには、遺留分侵害額の金額を、「遺留分侵害額として○○円を支払ってください。」というような形で、具体的に示して請求する必要があります。ですので、具体的な金額を示さずに、例えば、単に「遺留分侵害額額を支払ってください」「遺留分侵害額として相当額を支払ってください」と請求するだけでは、遅延損害金は発生しないことになりますので、その点に注意が必要です。[ii]

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[i] 直ちに遺留分侵害額を支払うことが難しい場合は、裁判所に支払いの期限を延長してもらう申立て(相当の期限の許与)を行うことができます(民法1047条5項)

[ii] 遺留分侵害額請求権を発生させるための権利行使自体は、相続開始及び遺留分侵害の事実を知った時から1年、又は(上記を知らない場合)相続発生から10年以内にする必要があり、これを経過してしまうと、遺留分侵害額を請求すること自体できなくなってしまいますが(民法1048条)、この権利行使については、上記の「遺留分侵害額を支払ってください」「相当額を支払ってください」といった抽象的な請求で問題なく効果が発生することになります。

弁護士: 原 萌野