国際相続(1):中華人民共和国(中国)国籍の方が被相続人の場合に適用される法律

国際相続

2022年10月7日/弁護士 武田雄司

1.はじめに

 日本にも多くの外国籍の方が居住されておられ、国籍が異なる方どうしで結婚されているケースも珍しくありません。外国籍の方が亡くなった場合も相続が発生しますが、どこの国の法律が適用されることになるのでしょうか。

2.日本に居住する外国籍の方が亡くなった場合に適用される法律

 日本以外の国籍の方や法人が関係する法律関係に関して、どこの地の法律が適用されるかということについては、「法の適用に関する通則法」に定めがあり、相続については次のとおり定められています。

(相続)

第三十六条 相続は、被相続人の本国法による。

 そのため、外国籍の方が亡くなった場合、当該亡くなった方の国籍の国(地域)の法律が適用されることになります。

 ただ、当該亡くなった方の国籍の国(地域)の法律が、日本法を適用することを定める場合には、日本法が適用されることとなります。

(反致)

第四十一条 当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を含む。注:25条は「婚姻の効力」に関する条文。)又は第三十二条(注:32条は親子間の法律関係に関する条文。)の規定により当事者の本国法によるべき場合は、この限りでない。

3.中華人民共和国(中国)の国籍の方がお亡くなりになった場合

 中華人民共和国(中国)の方がお亡くなりになった場合、中華人民共和国の法律が適用されることになります。

※台湾、香港、マカオは、それぞれ別の法体系があるため、ここでいう「中華人民共和国」には含まれない点に注意が必要です。

 日本に居住する中華人民共和国の国籍の方が亡くなった場合の相続に適用される法律に関して、中華人民共和国の法律では、次のとおり定められています。

「渉外民事関係法律適用法」(2010.10.28全国人民代表大会常務委員会公布[主席令第36号]、2011.04.01施行   主席令第36号)(中国語タイトル「中华人民共和国涉外民事关系法律适用法」)

第31条  法定相続には、被相続人の死亡時における経常的住所地の法律を適用する。ただし、不動産の法定相続には、不動産所在地の法律を適用する。

 このとおり、日本に居住する中華人民共和国の国籍の方がお亡くなりになったケースでも、「経常的住所地の法律」である日本法が適用されることとなります。もっとも、お亡くなりになった方が、日本以外(例えば、中華人民共和国やアメリカ等の日本以外の国、地域)に不動産を有していた場合、当該不動産に関しては、不動産が所在する地の法律が適用されることになる点は注意が必要です。

4.被相続人が中華人民共和国の国籍であっても日本の裁判所に遺産分割に関する申立てをすることができるか

 上述した「3」の適用される法律の話とは別に、仮に、被相続人が中華人民共和国の国籍の方の相続で協議がうまくできない等トラブルが発生した場合、日本の家庭裁判所に対して遺産分割に関する申立てをすることができるのでしょうか。

 このような問題に関して、「家事事件手続法」では、次のとおり定めがあり、日本国内に住所があれば(注意:日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有している場合は除かれます。)、原則として、日本の家庭裁判所に対して遺産分割に関する申立てをすることができますので、日本国内で解決をすることができます。

「家事事件手続法」

(相続に関する審判事件の管轄権)

第三条の十一 裁判所は、相続に関する審判事件(別表第一の八十六の項から百十の項まで及び百三十三の項並びに別表第二の十一の項から十五の項までの事項についての審判事件をいう。)について、相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。

(家事調停事件の管轄権)

第三条の十三 裁判所は、家事調停事件について、次の各号のいずれかに該当するときは、管轄権を有する。

一 当該調停を求める事項についての訴訟事件又は家事審判事件について日本の裁判所が管轄権を有するとき。

二 相手方の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。

三 当事者が日本の裁判所に家事調停の申立てをすることができる旨の合意をしたとき。

以 上

弁護士: 武田雄司