遺留分を算定するための財産の価額②

遺産分割・遺留分

1 はじめに

本コラムは、コラム「遺留分を算定するための財産の価額」に記載の民法1044条1項後段における「損害を加えることを知って」の要件(以下「加害認識」といいます。)について解説するものです。

2 判例実務における解釈

上記コラム「遺留分を算定するための財産の価額」にも記載のとおり、判例実務上、加害認識があったといえるためには、生前贈与の当事者において遺留分権者の遺留分を侵害することの積極的意図・意思までは不要であるものの、以下の2つの認識・予見が必要とされております(大判昭和11年6月17日・民集15巻1246頁)。

①贈与当時に贈与財産の価格が残存財産の価格を超えることを認識していたこと
②贈与当時、将来において相続開始までに被相続人の財産が増加しないことの予見があったこと

そして、加害認識の立証責任は遺留分権者にあり、かつ、加害の認識の認定は贈与当時の事情によって判断されるべきと解されております(中川 善之助 (元東北大学名誉教授)・加藤 永一 (東北大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(28)相続(3) 遺言・遺留分 — 960条~1044条 補訂版【復刊版】』(有斐閣、2010年)462頁以下)。

3 加害認識の有無の判断における考慮要素

裁判例上、上記②の予見の有無の判断に際しては、被相続人の年齢、稼働能力や収入状況、贈与から相続までの期間等が考慮される傾向にあります。

【裁判例における判断例】

  • 大判昭和19年7月31日は、被相続人が68歳で脳溢血を患っていたことを認定したうえで、その年齢や身体状況から稼働能力がなく、将来における財産の増加がないことの予見があったと判断しました。
  • 前橋地判昭和32年6月6日は、被相続人が72歳で言語障害を患っていたと認定したうえで、その年齢や身体状況から稼働能力がなく、将来における財産の増加がないことの予見があったと判断しました。
  • 仙台高秋田支判昭和36年9月25日は、農業で生計を立てていた被相続人が老年で右手の指に障害があったと認定したうえで、その年齢や身体状況から稼働能力がなく、将来における財産の増加がないことの予見があったと判断しました。

 

弁護士: 土井將