遺産分割前の預貯金払戻し②

遺産分割・遺留分

「遺産分割前の預貯金払戻し①」でご説明したとおり、相続が発生したとき、被相続人名義の預貯金債権も遺産分割の対象に含まれますので、遺産分割協議等が成立するまでは各相続人が勝手に預金の払い戻しをすることはできません(最大決平28年12月19日)。

遺産分割協議等が成立する前に相続人が預金の払戻しをする方法として「遺産分割前の預貯金払戻し①」では民法上の制度についてご説明しましたが、家事事件手続法にもそのような制度が用意されています。

家事事件手続法200条2項では「前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。」と定めています。これにより相続人は仮処分として預金の払い戻しを受けることが可能です。

しかし同項を利用するためには、「急迫の危険を防止するため必要があるとき」という厳格な要件を満たす必要があるため必ずしも相続人の資金需要に柔軟に対応できるとは限りません。

そこで家事事件手続法200条3項では預貯金の払い戻しについて「家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。」と定めています。

つまり、相続人が①遺産分割調停又は審判の申立てをしたこと及び②相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁など被相続人名義の預貯金を払い戻す必要があることという要件を満たした場合、裁判所は申立てをした相続人に対して仮処分として預貯金債権を取得させることができるということです。このような制度を利用すれば、「急迫の危険を防止するため必要があるとき」という厳格な要件を満たさなくても相続人が預金の払い戻しを受けられる可能性があります。

弁護士: 松本政子