生命保険金の非課税枠を活用した節税対策
遺産分割・遺留分
本コラムでは、生命保険の非課税枠を利用して、相続税額を圧縮する節税策をご紹介いたします。
1 前提:相続税の計算方法
相続税額は、以下の式で計算されます。
【各法定相続人の相続税額=(課税遺産総額×各法定相続人の法定相続分)×相続税率】
したがって、課税遺産総額ないしその前提となる遺産額を圧縮することが節税につながります。
遺産額を圧縮するためには種々の非課税枠を活用することが一つの手段となりますが、今回は、種々の非課税枠の内、生命保険金の非課税枠についてご紹介致します。
2 生命保険金の非課税枠
相続税法第12条第5号において、生命保険の非課税限度額(非課税枠)が定められています。そこでは概要、「生命保険の非課税枠=法定相続人の数×500万円」であると規定されています。仮に法定相続人が3人いる場合には非課税枠は1500万円となります。生命保険金は「みなし相続財産」として遺産総額に含められるため相続税の対象となるものですが、一方、遺産総額のうちに生命保険金がある場合には非課税枠を活用することができます(現金・預金のまま持っている場合には非課税枠は利用できません。)。
以下で具体例をみながらご説明します。
3 具体例
【設例】
父が死亡。相続人は子供3人のみ。遺産総額は6000万円(現金・預金)である。
【対策前】
遺産総額6000万円に対する相続税額は120万円となります。
【対策後】
父は生前に相続対策として、終身生命保険(保険料は一時払いで400万円。死亡保険金500万円)に3口加入した。受取人は、それぞれ3人の子供とした。父は合計で1200万円の保険料を支払ったため、父が死亡した際の財産(現金・預金)は4800万円となった。
父が死亡した際、相続人3人は生命保険金として各人500万円を受け取る。これらはみなし相続財産となるため、遺産総額は、4800万円+1500万円=6300万円となる。しかし、生命保険金の非課税枠が1500万円であるため、遺産額は6300万円(遺産総額)-1500万円(非課税枠)=4800万円(遺産額)となる。この遺産額から、基礎控除額4800万円を控除した課税遺産総額は0円となる。したがって、相続税額は0円となる。
相続対策をする前の、相続人1人当たりの取得額は2000万円で、さらに、ここから相続税として1人分40万円を支払う必要があった。
相続対策をした後は、相続人1人当たりの取得額は2100万円となり(現金・預金1600万円と生命保険金500万円)、かつ、相続税は0円となった。
4 まとめ
上記の節税策の要点は、「死亡時の被相続人の財産を、課税対象となる財産(課税財産)のまま保持するのではなく、その一部を、非課税枠が認められる財産(非課税財産)に化けさせることで、遺産額(ひいては課税遺産総額)を圧縮し、節税を行う」というものです。非課税枠が認められている非課税財産のうち生命保険は、保険料を納めるだけの現金または預金等をお持ちの方であれば容易に活用できるため、生命保険の非課税枠を用いた節税策はまず検討すべき選択肢となります。
もっとも、生命保険の非課税枠を活用するにあたっては、当該生命保険の契約者及び被保険者を被相続人とし、受取人を相続人とする必要があるなど、満たすべき条件があるため、実際に活用を目指される場合には、弁護士・税理士等へご相談ください。
弁護士: 国府拓矢