国際相続(4):中華人民共和国(中国)の法律における相続放棄について

国際相続

2023年1月26日/弁護士 武田雄司

1.はじめに

 本稿では、中華人民共和国の法律が適用される場合の相続放棄について確認をしてきたいと思います。

2.中華人民共和国(中国)法における相続放棄の規定

2.1  時期及び方法

 中華人民共和国の「民法典」(第13期全国人民代表大会第3回会議2020.05.28公布、2021.01.01施行、主席令第45号)には、相続放棄は次のとおり規定されています。

第1124条 相続開始後、相続人は、相続を放棄する場合には、遺産処理の前において、書面により相続を放棄する旨の表示をしなければならない。表示しないときは、相続を受けるものとみなす。

 また、この規定の解釈として、「「民法典」相続編の適用に関する最高人民法院の解釈(一)」(最高人民法院2020.12.29公布、2021.01.01施行、法釈[2020]23号)には次のとおり規定されています。

第33条  相続人は、相続を放棄するにあたり、書面の形式により遺産管理人又は他の相続人に対し表示しなければならない。
第35条  相続人による相続を放棄する旨の意思表示は、相続開始後及び遺産分割前にこれをしなければならない。遺産分割後に放棄を表示するものは、相続権ではなく、所有権である。
第36条  遺産処理前又は訴訟係属中に、相続人が相続の放棄について翻意した場合には、人民法院が当該相続人の提出する具体的理由に基づき、承認するか否かを決定する。遺産処理後に、相続人が相続の放棄について翻意した場合には、これを承認しない。

 このとおり、日本法と異なり、相続開始後3ヶ月という具体的な期間の制限は設定されておらず、逆に、相続開始後で遺産分割前に行えば足りるとされています。

 また、方式としても、書面により遺産管理人又は他の相続人に対して表示することで足り、日本のように家庭裁判所で手続をする必要もありません。

 さらに、事情によるところではあるものの、翻意することも場合によっては可能です。

2.2  制約

 以上のとおり、比較的緩やかに相続放棄ができるものの、以下のとおり、相続放棄ができない場合もあり、この観点で見ると、日本法よりも制約の程度は大きいといえます。

「「民法典」相続編の適用に関する最高人民法院の解釈(一)」
第32条  相続人が相続権を放棄することにより、当該相続人が法定義務を履行することができなくなる場合には、相続権を放棄する行為は、これを無効とする。

 ここでいう「法定義務」とは、
①責任も能力もあるのに尽くされていない扶養義務
②相続人の個人的事情で生じた債務
③被相続人の葬儀費用の支払義務
等がこれにあたるとされています【(2021)最高法民申6927号】。

3.まとめ

 中華人民共和国法が適用される場合の相続放棄は、日本法とは異なり、具体的な時間の制約もなく、遺産分割が終わる前に書面で相続人に表明すればよい反面、「法定義務」を履行できなくなる場合には無効とされる等、実質的には自由に放棄ができないという観点では、この点期間の制約さえ遵守すれば何も検討する必要がない日本法よりも制約の度合いは大きい制度とされています。

                         以上

弁護士: 武田雄司