寄与分(被相続人が経営する会社への労務提供)
遺産分割・遺留分
被相続人が経営する会社への労務提供を行った場合に、その貢献は相続において寄与分として反映されるのでしょうか。
1 原則 寄与分は認められない
被相続人が経営する会社への労務提供は、あくまで会社への労務提供であるため、「被相続人の事業に関する労務の提供」(民法904条の2第1項)に該当しません。原則として、寄与分は認められません。
2 例外 実質的に被相続人の事業への労務提供である場合
しかし、被相続人が営業の利益の全てを取得していたというような、名ばかりの会社に対する労務提供をし、無償で労務提供をしていた場合、例外的に、寄与分が認められる可能性があります。下記裁判例にのように、相続人の労務提供を寄与分として認めている例があります。
高松家丸亀支部審判平成3年11月19日(家月44巻8号40頁)
「被相続人は・・・昭和28年12月には資本金100万円を全額出資して〇〇運送有限会社を設立し,車3台で砂利等の運送業も始めた。・・・被相続人は亡くなるまで上記各営業の利益の全てを手中に収め,尾崎家の家計を握っていた。」
「(被相続人遺産と相手方らの贈与財産)は,昭和32年の申立人の夫の不祥事で被相続人が経済的苦境に陥ってからも維持され,または,その苦境を乗り切った昭和40年ころから被相続人の死亡した昭和57年までの間に増加されたものであるが,その間の被相続人の年齢は50歳代後半から80歳に至っているので,相手方らの特別の寄与は,相当顕著なものがあったと推認されること,特に,相手方一夫は夫婦で無償労働により被相続人の遺産の維持増加に寄与し,相手方豊子は無償労働だけでなく自己所有の不動産収入も遺産の維持増加に役立てていた(なお,同相手方は結婚もせず被相続人に尽くし,子供の教育費等の負担もない)こと,相手方守は昭和35年に婚姻した後低い給料ながら一応給料を受領し,昭和47年ころからは自分で給料を決定し受領しているので,無償労働を提供した昭和28年から昭和35年までの間,また被相続人の経済的苦境のもとで低い給料で労務を提供した期間,被相続人の遺産の維持増加に協力したと解されること等諸般の事情を斟酌すると,被相続人の遺産及び相手方らの贈与財産の維持増加に対する寄与割合を,相手方一夫が35パーセント,同守が10パーセント,同豊子が20パーセント程度の目安で,相手方らの寄与分の有無・程度を算定することとし,相手方一夫は遺産の維持増加に協力した労に報いるにふさわしい財産(合計3336万円)を贈与されていると認められるので,寄与分を定めることができないが,相手方守は贈与財産で報われていない寄与分を200万円と,相手方豊子も同様に寄与分を1200万円と定めるのが相当である。」
弁護士: 仲野恭子