国際相続(6):中華人民共和国(中国)の法律における相続の紛争処理について
国際相続
2023年3月24日/弁護士 武田雄司
1.はじめに
本稿では、相続の紛争処理方法について、中華人民共和国(中国)法と日本法との違いを確認したいと思います。
2.中華人民共和国(中国)法が定める相続の紛争処理について
中華人民共和国の「民法典」(第13期全国人民代表大会第3回会議2020.05.28公布、2021.01.01施行、主席令第45号)には、次のとおり規定されています。
第1132条 相続人は、相互理解・相互譲歩及び和睦・団結の精神に則り、相続問題を協議により処理しなければならない。遺産分割の時、方法及び相続分については、相続人が協議により確定する。協議が不調である場合には、人民調停委員会が調停し、又は人民法院に対し訴えを提起することができる。
このように、遺産分割協議を行うことが前提とされていますが、遺産分割協議が不調に終わった場合には、「人民調停委員会」において「調停」をすることと「人民法院」において「訴えを提起」することを選択することができます。
訴えを提起する場合、訴訟に参加することを希望しない相続人がいる場合でも、当該相続人は「共同原告」として参加させる必要があり(「「民法典」相続編の適用に関する最高人民法院の解釈(一)」第44条(最高人民法院2020.12.29公布、2021.01.01施行、法釈[2020]23号)、固有必要的共同訴訟の形態を取るべきことが規定されています。
第44条 相続訴訟の開始後に、相続人及び受遺者のうちに訴訟への参加も希望せず、かつ、実体権利の放棄も表示しない者がいる場合には、これを共同原告として追加しなければならない。相続人が既に書面により相続を放棄する旨を表示し、又は受遺者が遺贈を受けることを知った後60日内に遺贈を受けることを放棄する旨を表示し、若しくは期限が到来しても表示しない場合には、その後は当事者に組み入れない。
3.日本法が定める相続の紛争処理について
日本法においては、遺産分割については、「第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。」(家事事件手続法第257条第1項)とされているため、訴えを提起することができません。
なお、規定上は、何ら協議をせずに遺産分割調停を申し立てることも可能です。
「家事事件手続法」
(調停前置主義)
第二百五十七条 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。
3 裁判所は、前項の規定により事件を調停に付する場合においては、事件を管轄権を有する家庭裁判所に処理させなければならない。ただし、家事調停事件を処理するために特に必要があると認めるときは、事件を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に処理させることができる。
(調停事項等)
第二百四十四条 家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか、この編の定めるところにより審判をする。
別表第二
十二 遺産の分割 民法第九百七条第二項
このように、手続面において、日本法と中国法では遺産分割の紛争解決方法について異なる手続が予定されています。
※なお、日本法においても、「訴えを提起」することができないだけで、「審判」の申立ては「訴えを提起」することに含まれていないことから、遺産分割調停を経ずに、遺産分割審判を申立てることができます。
4.まとめ
遺産分割の紛争について、日本では、調停前置主義に基づき、家庭裁判所における調停又は審判で解決することとなり、訴訟をすることはありませんが、中国では、協議がまとまらない場合、人民調停委員会における調停又は人民法院における訴訟のいずれも選択することが可能であり、この点で予定されている紛争解決手続が異なっています。
以 上
弁護士: 武田雄司