国際相続(3):中華人民共和国(中国)の法律における遺言について

国際相続

2022年12月31日/弁護士 武田雄司


1.はじめに

 本稿では、日本に居住する中華人民共和国の国籍の方が遺言を作成する場合に適用される法律を確認していきたいと思います。

2.日本に居住する中華人民共和国の国籍の方が遺言を作成する場合に適用される法律

 日本法である「法の適用に関する通則法」では次のとおり規定されています。

(遺言)
第三十七条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。
2 遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。

  そして、中華人民共和国における同種の法令である「渉外民事関係法律適用法」(2010.10.28全国人民代表大会常務委員会公布[主席令第36号]、2011.04.01施行)(中国語タイトル「中华人民共和国涉外民事关系法律适用法」)には次のとおり規定されています。

第32条  遺言方式が遺言者の遺言時又は死亡時における経常的住所地の法律、国籍国の法律又は遺言行為地の法律に適合する場合には、遺言は、いずれも成立するものとする。
第33条  遺言の効力には、遺言者の遺言時又は死亡時における経常的住所地の法律又は国籍国の法律を適用する。

 そのため、日本に居住する中華人民共和国の国籍の方が遺言を作成する場合、「遺言の方式」については、中華人民共和国の法律(=国籍国の法律)に基づいて行うことでも、日本の法律(=経常的住所地の法律又は遺言行為地の法律)に基づいて行うことでも法的には問題がなく、いずれの方式でも有効な遺言書を作成することができます。

 また、「遺言の効力」についても、「遺言者の遺言時又は死亡時における経常的住所地の法律又は国籍国の法律」が適用されることから、いずれかの国の法律に基づく効力が生じることとなります。

3.中華人民共和国法における遺言に関する規定

3.1 遺言の方式について

 中華人民共和国の「民法典」(第13期全国人民代表大会第3回会議2020.05.28公布、2021.01.01施行、主席令第45号)には、遺言の方式として、以下の方式について規定されています。

(1)自筆証書遺言(第1134条)
※遺言者が自書し、署名し、年月日を明記する方法

(2)代筆遺言(第1135条)
※2名以上の立会人が立ち会い、そのうち1名が代筆し、かつ、遺言者及び代筆者その他立会人が署名し、年月日を明記する方法

(3)印刷遺言(第1136条)
※2名以上の立会人が立ち会いのもとで印刷し、遺言者及び立会人が、遺言の各ページに署名し、年月日を明記する方法

(4)録音・録画遺言(第1137条)
※2名以上の立会人が立ち会いのもと、録音・録画し、遺言者及び立会人が、録音・録画において自らの氏名又は肖像及び年月日を記録する方法

(5)緊急時口頭遺言(第1138条)
※危急の状況において、2名以上の立会人の立ち会いのもと、口頭で行う方法
 但し、危急の状況が除去された後、遺言者が書面又は録音・録画の形式により遺言をすることができる場合には、なされた口頭遺言は、無効とされています。

 また、上述の遺言について、それぞれ、公証機構において公証の手続を減ることも可能です(第1139条)。

 このように、代筆や印刷、録音・録画でも遺言を行うことができる点が日本法との大きな違いであり、日本法よりもより作成しやすい方式が認められているといえるでしょう。

 なお、立会人については次のとおり規定されており、相続人はもちろん、相続人と利害関係を有する者も立会人の資格が認められていませんので注意が必要です。

第1140条 次に掲げる人員は、遺言の立会人とすることができない。
  (一)民事行為無能力者、制限民事行為能力者及び立会能力を有しないその他の者
  (二)相続人及び受遺者
  (三)相続人及び受遺者と利害関係を有する者

※「利害関係を有する者」についても次の規定があるため、注意が必要です。

「民法典」相続編の適用に関する最高人民法院の解釈(一)(最高人民法院2020.12.29公布、2021.01.01施行 法釈[2020]23号)
第24条  相続人及び受遺者の債権者及び債務者並びに共同経営をするパートナーについても、相続人及び受遺者と利害関係を有するとみなさなければならず、遺言の立会人とすることができない。

3.2 遺言の効力について

 遺言の効力については、日本法と大きな差はなく、次のとおり規定されています。

■第1142条
・遺言者は、自己のした遺言を撤回し、又は変更することができる。
・遺言をした後、遺言者が遺言内容と相反する民事法律行為を実施した場合には、遺言の関連内容に対する撤回とみなす。
・数通の遺言をし、内容が互いに抵触する場合には、最後の遺言を基準とする

■第1143条
・民事行為無能力者又は制限民事行為能力者のした遺言は無効
・欺罔又は強迫を受けてなされた遺言は無効
・偽造された遺言は無効
・遺言が改ざんされた場合、改ざんされた内容無効

■第1144条
・負担付き遺言の場合、正当な理由なく義務を履行しない場合は、利害関係人の請求を経て、義務が付された部分の遺産を受ける権利を人民法院が取り消すことができる。

4.まとめ

 日本に居住する中華人民共和国の国籍の方が遺言を作成する場合には、日本法に基づき作成することもでき、また、中華人民共和国法に基づく作成することもできるため、それぞれ、都合のいい方法で作成することができます。

 もっとも、よりスムーズに遺言を執行することを考えると、日本にある財産については、日本法に基づき、中華人民共和国にある財産については、中華人民共和国法に基づき、それぞれ作成することが望ましいのではないないでしょうか。

 なお、日本法においては、公証証書遺言以外の遺言は、「検認」の手続(日本民法第1004条)が必要になりますが、中華人民共和国法においては、「検認」の手続は規定されていません。
                                       以上

弁護士: 武田雄司