他の相続人が判断能力を欠く場合の特別代理人制度の活用

遺産分割・遺留分

1 特別代理人制度と成年後見人制度

 遺産分割をする際に、他の相続人が認知症や精神障害等により、判断能力を欠く場合があります。判断能力を欠く場合には、遺産分割協議を有効に成立させることが出来ません。このような場合の対応策としては、家庭裁判所に申立てをして、成年後見人を選任してもらうという手段があります。しかし、成年後見人制度の方法による場合、遺産分割協議が成立した後の財産管理も成年後見人が行うことになります。今後の財産管理まで全て成年後見人に任せたいということであれば妥当な方法ですが、成年後見人にはその後継続的に費用を支払う必要があります。遺産分割協議成立のみにフォーカスし、余計な費用は支出せず、迅速に遺産分割協議を成立させたいという場合には、遺産分割調停を申し立て、他の相続人については、特別代理人を選任するという手段を検討する価値があります(家事事件手続法第19条1項)。特別代理人は、まさにその遺産分割調停においてのみその相続人を代理するのであり、費用として10万円程度は必要であるものの、継続的に報酬を支払う必要はありません。

2 解釈上の問題と家庭裁判所での運用

 家事事件手続法の上記条文では「未成年者又は成年被後見人について、法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合」に特別代理人が選任できる、と規定されており、本件のような場合に特別代理人が選任できるかについては、明確には規定されていません。そのため、家庭裁判所によっては、特別代理人の選任を認めず、成年後見人の選任を要求するとの運用が採られることもあります。しかし、同法の立法担当者の逐条解説においては、「民事訴訟では、成年被後見人でない者であっても、事理弁職能力を欠 く常況にあってまだ後見開始の審判を受けていない者や相続人不明の相続財産について相続財産管理人が選任されていない場合にも、特別代理人を選任し得 ると解されているが、この点は、家事事件の手続においても、同様であると解される。」との解釈が明記されています(『逐条解説家事事件手続法』商事法務:法務省大臣官房審議官金子修編著。)。

3 まとめ

 特別代理人選任で進めるか、成年後見人選任で進めるかは、処理に要する時間・費用だけでなく、当該遺産分割終了後も継続的に成年後見人による財産管理がされるか否かという点で、大きく異なります。そのため、本件のような事案においては、代理人としては上記文献を示し、成年後見人制度の不都合を説明して、家庭裁判所を説得すべきと考えます。後日、特別代理人の選任が認められた事例及び判断能力を欠く常況にあることを疎明するための診断書の作成方法・記載すべき内容について執筆させていただきます。

 

弁護士: 国府拓矢