亡くなる前に預金が使い込まれている場合
遺産分割・遺留分
1 はじめに
被相続人の財産を管理している相続人がいて、この相続人が、生前被相続人の預金を多額に引き出していた場合、他の相続人は、この引き出された金額を、遺産に含めて、分割することができるのでしょうか。
2 遺産は死亡時残高が原則
大前提として、相続は死亡によって開始するため(民法882条)、被相続人が亡くなる前に、引き出された預金は、原則「遺産」には含まれません。
3 引き出された預金への対応方法
しかしながら、それでは他の相続人は、納得できないものと思います。そこで、この引き出しの理由ごとに考えて、以下の対応をすることが考えられます。
まず預金の引き出しが、被相続人の指示又は同意のもとになされた場合です。この場合は、被相続人の同意があるので、違法にはなりません。しかし、その引き出された多額の預金が、一部の相続人のために引き出されたもので、その相続人が取得した場合は、特別受益(民法903条)の問題になる可能性があります。
特別受益とは、特別受益とは一部の相続人が被相続人から受け取った特別な利益のことです。一部の相続人だけが被相続人から多額の贈与を受けていた場合、そのことを考慮せずに遺産を分配すると、他の相続人との関係で不公平になります。これを是正する制度が特別受益になります。ですが、この特別受益は、様々な論点がありますので、詳細は、別のコラムで解説いたします。
次に、預金の引き出しが、被相続人の指示、同意なく、勝手に引き出された場合です。この場合は、原則として「違法」になります。ただ、引き出された金額が、当然に遺産に組み込まれることはありません。
勝手に預金が引き出された時点で、被相続人は、預金を引き出した相続人に対して、不当利得返還請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権を取得します。被相続人が亡くなることによって、その権利を他の相続人が相続したことにより、勝手に預金を引き出した相続人に対して、損害賠償請求等することができるようになります。
この場合であっても、訴訟等によるのではなく、相続人間で、遺産分割協議や調停の段階で話し合って、引き出された預金も「遺産」に含めるなどして解決することは、実務上よく行われております。
4 最後に
以上のとおりですが、これはあくまでも一般的な内容を記載したにすぎません。具体的な対応については、やはり当該案件内容によって異なってきますので、詳細は当事務所にご相談ください。当事務所は、上記のような生前の預金引き出しについても、多数経験を積んでおりますので、お気軽にご相談いただきたく存じます。
弁護士: 横山和之