遺留分を算定するための財産の価額

遺産分割・遺留分

民法は、「遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。」と規定しています(民法1043条1項)。

しかしながら、この規定だけでは、生前贈与等により、遺留分を算定するための財産の価額をゼロにすることも可能となってしまいます。

そこで、民法は、相続人以外の者に対する贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、また、相続人に対する贈与は、相続開始前の十年間にしたもののうち婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額の限度で、遺留分を算定するための財産の価額に算入することとしています(民法1044条1項前段、3項)。

また、上記の期間より前の生前贈与については、「当事者双方(=被相続人と受贈者)が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」に限り、遺留分を算定するための財産の価額に算入する旨の規定が置かれています(民法1044条1項後段)。

しかしながら、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした」ことの立証は遺留分権利者において行う必要があります。そして、判例上、この立証のハードルは非常に高く設定されています。

すなわち、「損害を加えることを知って」とは、遺留分権利者に損害を加えるべき事実を知っていることで足り、加害の意思を有していたことは要しない(大判昭4・6・22民集8-618)とする一方で、「損害を加えることを知って贈与をした」と言うためには、贈与当時に贈与財産の価格が残存財産の価格を超えることを知っていただけでは足りず、将来において相続開始までに自己の財産が増加しないことの予見のもとで当該贈与がされたことを必要とするとされています(大判昭11・6・17民集15-1246)。

弁護士: 林村 涼