遺産適格性および遺産分割対象性

遺産分割・遺留分

1 金銭

金銭は遺産として扱われますので、遺産分割の対象となります。現金は、被相続人の死亡により相続人らの共有状態となり、相続人らは法定相続分に応じた持分権を取得します。したがって、相続分に応じて分割された額が当然に承継されるものではなく、遺産分割が成立していない以上、他の相続人に法定相続分に応じた引渡しを求めることはできません(最判平成4・4・10家月44巻8号16頁)。

2 預貯金

預貯金については、最高裁判所が平成28年に判例を変更しました(最大決平成28年12月19日)。その結果、預貯金は可分債権に当たらず、遺産分割の対象として扱われることになりました。

3 株式

株式は遺産として扱われ、遺産分割の対象となります。遺産分割までの間は、遺産たる株式全てについて相続人間で準共有関係が生じ、相続分に応じた持分を有することになります(東京高判昭和48・9・17高民集26巻3号288頁)。

4 法定果実(不動産からの賃料収益等)

不動産からの賃料収益等の法定果実は、遺産として扱われます。判例(最判平成17・9・8民集59巻7号1931頁)は、「遺産は、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産分割により特定の相続人に帰属した遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得」するとしています。もっとも、当事者の合意があれば遺産分割の対象として扱うことも可能です。

5 生命保険金

生命保険金については、被保険者と受取人の関係によって異なります。

①被保険者=被相続人、受取人=特定の相続人の場合

遺産とは扱われず、指定された者が固有の権利として保険金請求権を取得します(大判昭和11・5・13民集15巻11号877頁)。

②被保険者=被相続人、受取人=抽象的に「相続人」と定めた場合

遺産とは扱われず、特段の事情がない限り、保険金請求権発生当時の相続人たる個人を受取人として指定したものと解され、相続人の固有財産となります(最判昭和40・2・2民集19巻1号1頁)。各相続人が受け取るべき割合は、法定相続分に従います(最判平成6・7・18民集48巻5号1233頁)。

③被保険者=被相続人、受取人=指定なしの場合

保険約款の「被保険者の相続人に支払います。」との条項の適用を受け、上記②と同じになります。

④被保険者=被相続人、受取人=被相続人の場合(養老保険等)

・満期保険金(保険契約の満期後に被相続人が死亡した場合)

遺産として扱われ、保険契約の効力発生と同時に被相続人の固有財産となります。

・保険事故による保険金(満期前に被相続人が死亡した場合)

保険契約者=被相続人の意思を合理的に解釈すれば、相続人を受取人とする黙示の意思表示があったと解するか、少なくとも受取人の指定がなかったと解されます。そのため、上記②③と同様になります。

6 死亡退職金

死亡退職金は、原則として、遺産としては扱われません。受給者が固有の権利として取得するものとされますので(東京高判昭和40・1・27下民集16巻1号105頁、最判昭和55・11・27民集34巻6号815頁)、被相続人の固有財産とはならず、遺産とは扱われません。ただし、特別受益の問題は生じることになります。

7 遺族年金

遺族年金は、原則として、遺産としては扱われません。遺族給付については、「遺族の生活保障」としての性質を有するものであれば、遺産性は否定されるものと考えられています。

8 香典

香典は、遺産とは扱われません。死者の供養または遺族に対する慰謝のために贈られるものであり、被相続人の固有財産を形成しません。一般的に、香典は葬式費用に充当され、なお残額がある場合には、喪主に帰属するという考え方が有力ですが、各相続人に帰属するという審判例もあります(大阪家審昭和40・11・4家月18巻4号104頁)。

9 祭祀財産(墓等)

祭祀財産(墓等)は、遺産としては扱われません(民法897条)。被相続人の指定があるときはその者が、ない場合は慣習に従った祭祀主宰者が承継します。慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定めることになります(家手別表第2第11頁)。

10 被相続人の遺骨

被相続人の遺骨は、遺産としては扱われません。通説によれば、その所有権は慣習法に基づき喪主たる者または祭祀主宰者に原始的に帰属するものと解されています。

 

 

 

 

 

弁護士: 狼谷拓迪