遺族年金と遺留分(特別受益)

遺産分割・遺留分

1 問題の所在

 遺族年金とは、国民年金又は厚生年金保険の被保険者又は被保険者であった方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。

 被相続人が相続開始時に有していた財産は遺留分算定の基礎とされます(民法1043条1項)。また、相続人に対する遺贈や贈与のうち特別受益に該当するものも遺留分算定の基礎となり得ます(民法1044条3項、903条1項)。

 遺族年金は、相続発生後に遺族(相続人)が有することになる権利ですが、被相続人が生前に負担していた保険料が原資となっている側面もあり、「相続」的な性格も有することから、遺族年金が遺留分の基礎に含まれるかどうかという問題が生じます。

2 相続財産に含まれるかどうか

 遺族年金は、遺族が遺族の立場で受給する「遺族固有の財産」であって相続財産には含まれないとするのが多数説です。審判例(大阪家審昭和59年4月11日家月37巻2号147頁)でも、「厚生年金保険法は相続法とは別個の立場から受給権者と支給方法を定めたものとみられ、相手方(=遺族)が支給を受けた遺族年金は同人の固有の権利にもとづくもので被相続人の遺産と解することができない。」とされています。

3 特別受益に該当するかどうか

 一方、遺族年金が特別受益に該当するかどうかについては、特別受益に該当して遺留分算定の基礎になるとする見解もありますが、多数説は、根拠条文である民法903条の文理解釈上、遺族年金を「遺贈」や「特別の贈与」と見ることは困難であるので特別受益には該当しないという見解です。裁判例や審判例でも、特別受益には該当しないと判断されている例が多いです(東京高決昭和55年9月10日判タ427号159頁*1、大阪家審昭和59年4月11日*2)。

以 上

*1 「(1)死亡退職手当に未払賃金の後払的な側面が含まれ、遺族年金に死亡者の出損する掛金をもとにした給付の性格があるにしても、これらは、文理上民法903条に定める生前贈与又は遺贈に当たらないこと、(2)受給権者である相続人が死亡退職手当又は遺族年金のほか相続分に応じた相続財産を取得しても、この結果は共同相続人間の衡平に反するものということはできないし、むしろ被相続人による相続分の指定など特段の意思表示がない限り、被相続人の通常の意思にも沿うものと思われること、(3)民法1044条は遺留分に関し同法903条を準用しているが、上記死亡退職手当又は遺族年金は遺留分算定の基礎に算入されながらも、減殺請求の対象にならないものと解され(減殺請求の対象になるとすると、受給権者の生活保障を目的とする条例又は法律の趣旨に牴触することになる)、その結果、他に贈与又は遺贈がないとき、遺留分侵害を受けながら減殺請求ができない場合が生ずるという不合理な結果が考えられること、(4)遺族年金のような年金の場合には、特別受益額が遺産分割時期の偶然性により左右されることになり、またこれを避けるため受益者たる相続人の平均余命を基準に中間利息を控除して相続開始当時の特別受益額を評価することは受益額が事実に反し衡平に沿わない遺産分割の結果を招くおそれがあることなどの諸点に照らすと、上記退職手当及び遺族年金を特別受益と解する見解を採用することはできない。」(東京高決昭和55年9月10日判タ427号159頁)

*2 「受益額の算定は困難であり、かりに平均余命をもとに相手方の生存年数を推定し、中間利息を控除する算式では一三六七万円となるが、これを相続開始時の特別受益額と評価することは明らかに過大であつて、受給者の生活保障の趣旨に沿わない結果となる。更に遺族年金の受給自体民法903条規定の贈又は生前贈与に直接該当しない難点がある。」(大阪家審昭和59年4月11日)

弁護士: 相良 遼